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●2023年2月号
■ 「歴史的転換」の闘いに勝利しよう
    宝田 公治

■ はじめに

かなり大げさなタイトルになったが、「歴史的」ということでは、自然界では気候変動に象徴されるように、日本でも気温・降雨・降雪等で「観測史上最高」「何十年ぶり」が多発している。人間社会でも昨年2月、ヨーロッパのど真ん中でロシアがウクライナに軍事侵攻した。昨年7月、安倍元首相が街頭演説中に銃撃によって殺害された。昨年12月16日に閣議決定した「安保三文書」の改定は「専守防衛」の抹殺、防衛費GDP比2%は世界第3位の軍事大国となり歴史的転換だ。原発問題では、12月22日の「グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針案」は、原発の再稼働促進、新規建設と運転期間の延長など、2011年福島第一原発事故後堅持してきた政府方針を大きく転換した。経済面では41年ぶりの消費者物価上昇で、連合の5%程度要求も28年ぶりである。
   
何をもって「歴史的」というのか?人それぞれかもしれないが、現在の情勢は「歴史的」と言っても過言ではなく、これらの課題で1月23日から始まる通常国会や23春闘、そして統一自治体選挙で「歴史的転換」の闘いに勝利しなければならない。
   
   

■1. 23春闘

・1.アベノミクスの結末
   
アベノミクスの評価であるが、「異次元の金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略」の「三本の矢」は、トリクルダウンで労働者の生活も豊かになるとした。しかし、1人当たりGDPの国際比較は90年代はトップ5以内であったが、21年度は28位に低下した。実質賃金は、OECD中24位(平均より2割以上低く、米の55%、韓国より1割低い)である。また、日銀の国債爆買いによって、政府債務はGDPの2.5倍となった。アベノミクスの結末は、大企業の利益剰余金や株式配当金は6割強増加したが、前記の状況など国民経済と生活にとっては深刻な「生存の不安定の増大」となっている。
   
   
   
・2.岸田首相の「新しい資本主義」
   
「新しい資本主義」とは名ばかりで、アベノミクスの継承に他ならない。自民党総裁選で主張していた「金融所得課税への増税」には蓋をした。一昨年11月頃から上がり始めた消費者物価の上昇が止まらず、昨年11月前年同月比で3.7%(12月4.0%)と、41年ぶりの高い伸びとなった。11月の実質賃金は▲3.8%に落ち込んだ。ちなみに41年前は、賃上げがあり実質賃金はプラスだった。値上げラッシュは今年も続く。物価高の要因として1つは、アベノミクスによる円安。もう1つは、ロシアへの経済制裁で、エネルギー・小麦の上昇である。これらを糊塗する手段として安倍政権に引き続き賃上げを財界にお願いしているが、日本経済の行き詰まりは明らかである。
   
   
   
・3.「先進国並みの賃金水準」をめざして闘おう
   
このスローガンは、JAM安河内会長の提起である。時宜を得たスローガンである。すべてのナショナルセンター・労働組合がこれを合言葉に粘り強く闘うこと、そして、その結果も求められる。
   
賃上げをめぐって、今日ほどマスコミが騒ぐのを私は知らない。17日、経団連は春闘の経営側方針である「経済労働政策特別委員会報告」を決定した。その中で「企業の社会的責務として、賃上げのために物価高の水準を超えることを念頭に大幅な賃上げを要請する」「中小企業の適正な価格転嫁や非正規労働者の処遇改善が欠かせない」と賃上げの意欲を示している。一方で、連合が求める5%程度要求を「実態から大きく乖離」とけん制も忘れない。
   
岸田首相は「賃金が毎年伸びていく構造をつくる」というが、財界への「賃上げ」のお願いだけである。政府の責任として賃上げを実現することが必要だ。「非正規公務員労働者の最低賃金を1500円に引き上げる」「保育や看護・介護労働者の賃金を公定価格として引き上げる」などやることはいくらでもある。
   
いずれにしても、これまでになく財界・首相がデフレマインド脱却として賃上げに前向きになっている情勢ではある。連合は1995年以来の5%程度要求(定昇2%、ベア3%)を掲げている。「先進国並みの賃金水準」への道のりは簡単ではないが、「定昇+物価上昇」を上回る賃上げの流れを作れるかどうか歴史的転換点に立っている。
   
   

■2. 安全保障の大転換

・1.安保3文書の改定
   
12月16日、閣議で安全保障戦略を大転換する「安保3文書」(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略(旧「防衛計画大綱」)、「防衛力整備計画(旧「中期防衛力整備計画」)を改定した。戦後、歴代政権が自衛隊を合憲の根拠としてきた「専守防衛」を抹殺した。すなわち、「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を保持し、日本が攻撃されていなくとも、日米が協力して敵基地を攻撃することを可能にした。そのために防衛費を27年度にGDP比2%にし、23〜27年度の防衛費を総額で43兆円とした。23年度予算案の防衛費は、破格の1兆4000億増の6兆8000億とした。整備計画では、敵の射程圏外から攻撃する「スタンド・オフ・ミサイル」として、米国製中距離巡航ミサイル・トマホークの購入、12式地対艦ミサイルの射程延長、極超音速ミサイルの開発などとしている。
   
1月14日、岸田首相はホワイトハウスでバイデン大統領と首脳会談を行い、安保3文書の改定を報告し、バイデン大統領は「歴史的」と持ち上げた。以下いくつかの問題点を述べる。

  1. 「専守防衛」の破綻から抹殺へ
    「専守防衛」とは、日本が他国から攻撃された時、他に手段がない場合に、必要最小限の武力行使が認められるもの。また、その地理的範囲は、我が国国土と周辺の公海、公空までとしてきた。憲法と日米安保条約の下では、自衛隊は「盾」、米軍は「矛」であった。その武力は「戦力」ではなく「実力」として、憲法九条二項「陸海空軍その他戦力は、これを保持しない」ことにも合憲としてきた。
       
    ところが歴代政権が違憲としてきた「集団的自衛権」行使を安倍政権の2014年7月1日閣議をして、15年安保法制「改正」で行使可能にした。この段階ですでに「専守防衛」は破綻した。
       
    政府は、安保三文書の改定でも「専守防衛」は不変だとするが、前述したが集団的自衛権行使で「専守防衛」は破綻し、かろうじて憲法九条が法規範として保っていた点は、「自衛隊が攻撃的武器を持たず、敵国の領域を直接攻撃しない」であったが、これも乗り超えてしまった。つまり、自衛隊が米軍と共同で「矛」になるということである。「専守防衛」の破綻を超え、抹殺したということである。
  2. 軍事大国化
    もう1つは、防衛費の増大である。これまで防衛費は憲法の制約として、GDP比1%枠というタガをはめてきた。しかし、最近では補正予算を含めると1%を超えていたが、今回は当初予算から2%以上にするというのである。これが実施されれば、日本は、米国、中国についで世界第3位の軍事大国となる。その自衛隊を「陸海空その他の戦力」ではないと説明できるはずがない。
  3. 民主主義の否定
    以上のような歴史的転換を国会の審議を経ないで決定した。また、通常国会で審議できるとしても、その前に米国に出かけて共同声明という形で決めてしまうことが民主主義と言えるのか。岸田首相の「聞く力」とは国民ではなく、米国ということであった。

・2.我が国周辺の情勢変化
   
改定理由は、安全保障をめぐる情勢の変化で、特に、ロシアのウクライナ侵攻と台湾有事を挙げている。
   
ロシアのウクライナ侵攻から11カ月になろうとするが、停戦・終戦への道は全く見えない。ウクライナ・ロシア兵やウクライナ市民の大量の死者、ウクライナの大量難民、都市の破壊など、これが戦争の現実である。しかし、米国・NATO・日本の対応は、相変わらずロシア批判と制裁。ウクライナへの軍事支援は戦争の継続支援でしかないが、これも戦争の現実である。ウクライナはアメリカの代理戦争をやらされているというのは言い過ぎだろうか。戦争は起こしてしまうと、早期に停戦・終戦させるのは困難なのである。だからこそ、戦争を起こさせない外交が重要なのである。この戦争からまなぶことはこれしかないはずだ。
   
もう1つの「台湾有事」。この問題の本質は、米国とりわけバイデン政権が経済的にも政治的(軍事的)にも競争相手と見なす中国との争いに、「台湾有事」を煽って日本を関与させるという戦略である。「2026年、中国が台湾に軍事進攻する」というシミュレーションが研究されている。そこでは、日本が参戦しなければ台湾が中国に軍事支配される。日本が参戦すれば中国を追い払うことはできるが、米・中・日に多大な被害がでるとされている。このシミュレーションが、今日の安保3文書改定につながっている。中国が台湾に軍事侵攻する蓋然性は検討されていない。軍事増大がいかに緊張を高めるかについてもである。事態を発生させない外交についても検討されていない。すべて軍事一辺倒の検討でしかない。
   
ロシア侵攻も含め、専制主義VS民主主義で対立をあおっているだけである。中国、朝鮮民主主義人民共和国、ロシアなどの専制主義的行動は批判されるべきであるが、外交による安全保障が思考停止になっている。日本の取るべき道は、唯一の被爆国、戦争の反省から生まれた平和憲法を持つ国として、戦争を起こさせない外交を主導することである。
   
   

■3. その他の重要課題

国民が第一に求めているのは命と暮らしの課題であり、新型コロナ対策や物価高対策などである。これについては、23春闘で若干述べた。これ以外では(1)子育て支援、(2)原発回帰、(3)旧統一教会問題であるが、紙幅の関係で課題のみの提起になるが、読者の議論・闘いが活発になれば幸いである。
   
   
   
・1.子育て支援
   
岸田首相は、年頭記者会見で「異次元の少子化対策」を掲げた。少子化問題の本質は、経済問題である。89年に合計特殊出生率が1.57となり、「1.57ショック」と言われ、少子化対策が叫ばれるようになった。しかし、その後も出生率は下降をたどり、21年は1.30だった。22年の子どもの出生数は、統計史上初めて80万人を割り込むとされている。これまでいくらかの対策はしてきたのだろうが、30年間本格的な対策をしてこなかったということだ。
   
政府の調査では、出産の課題は「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が過去20年間トップだ。だとすると少子化の原因の一番は、「貧困・格差の拡大」「非正規労働者の増大」である。また、OECDの中で最下位レベルの教育への政府支出も原因である。二つは、今年4月から発足する「こども家庭庁」だ。「子ども庁」の名称で議論が始まったが、右派議員らの主張によって「家庭」を第一義とする前近代的な名称となった。その予算は4兆8000億円で、22年度の関連予算を1200億円の上積みするにとどまっている。大膨張した防衛費とは対象的だ。また、子ども予算を倍増するとしているが、どこに財源を求めるのか。「6月の骨太方針で当面の方針を示す」としているが、国民への受けを狙ったものとしか思えない。本格的な少子化対策が求められる。
   
   
   
・2.原発回帰
   
問題の一つは、原発事故の収束が見えないなかで、方針を大転換したことである。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー情勢や、脱炭素化を口実に火事場泥棒的に進めようとしている。様々な被害にあった住民、未だに帰還できない住民への配慮がない。二つは、避難計画づくりや地元同意のメドが立っていないことだ。三つは、使用済み核燃料の貯蔵が限界を迎えつつあること。六ヶ所村再処理工場は、93年に建設がはじまったが、これまで26回の竣工延期を繰り返し、未だに稼働していない。四つは価格である。太陽光発電の買取価格は導入当時40円/kWhであったが、22年度では、大規模太陽光の場合10円/kWh未満、新設原発は2030年で11.7円/kWh以上との試算がある。五つは、新設の問題である。政府の将来電源構成を元にした試算がある。それによれば、2030年に26〜33基、50年に37〜50基が必要。そのための新規建設数は、30年までは不要だが、50年までには最大52基と全くリアリティのない数となっている。六つは、建設期間の長さだ。2011年政府資料によると、計画から稼働まで原発20年、太陽光1年、陸上風力4〜5年と、待ったなしのCO2削減に原発は向かない。最後に、次世代型の原発については、単なる宣伝文句にすぎないという評価である。
   
   
   
・3.旧統一教会問題
   
安倍首相の殺害をきっかけに、旧統一教会による被害や自民党との癒着が問われた。また昨年9月27日、岸田首相は安倍元首相の国葬を国民世論の反対をよそに強行したが、国葬に値するのかが問われた。これらによって岸田政権の支持率は急落した。旧統一教会の問題は、以前から政治やメディアが取り上げねばならなかったことだが。そのうえで問題点をあげると、以下となる。
   
12月10日、被害者救済法が成立した。政府は臨時国会での成立に消極的であったが、立憲と維新の共闘などにより、政府案を修正しながら成立させたことの意義は大きい。しかし、不十分な点も多い。それは、16項目の附帯決議に現れている。とりわけ「救済の範囲」に関して、マインドコントロール(洗脳)下での寄付勧誘が「十分な配慮義務」にはなったが、禁止にはならなかったことである。附帯決議で規定された2年後の見直しに向け解決していかねばならない。二つは、自民党との癒着解明である。昨年、自民党は自主点検を行ったが不十分である。とりわけ、安倍元首相(前清和会会長)、細田衆議院議長(元清話会会長)と旧統一教会との癒着の徹底解明である。また2015年、旧統一教会の名称変更が従来の文科省の主張を変更して許可された。その時の文科大臣は安倍派の下村博文氏だったが、この究明も求められる。

   
   

■4. 野党共闘の再構築と展望

1月12日、立憲安住・維新の会遠藤両国対委員長会談、翌日13日、安住氏は国民民主党古川国対委員長と会談、16日、安住氏と共産党穀田国対委員長が会談した。これらを踏まえ17日、立民・共産・れいわ・社民・維新・国民・有志の会7党派の国対委員長会談で、23日からの通常国会で「防衛費増税反対」「旧統一教会と自民党の癒着追求」で一致した。これ以外の政策については、とりわけ憲法・安全保障・原発などで維新・国民との違いはあるが、それを乗り超えて共闘することが国民からの信頼を得る唯一の方法である。当然今後の共闘の成否につながるものでもある。
   
「北海道世論調査会」の「直近の世論調査」によると、ロシアのウクライナ侵攻以来、敵基地攻撃能力と防衛費増額を求める世論はかなり高かった。ところが、12月16日の閣議決定を境に「防衛費増額」について、16日の前では

賛成 47.6%
反対 36.9%

だったが、その後では

賛成 45.2%
反対 47.2%

と逆転した。さらに1月になってJNNとNHKの世論調査では、

賛成 33.5%
反対 54.5%

となった。

「その財源を増税で」には
賛成 26.9%
反対 67.4%
「震災復興財源の一部を防衛費に転用」も
賛成 26.8%
反対 61.3%
「防衛費の増税に対する首相の説明」については
十分 8.1%
不十分 85.6%

となっている。潮目が変わってきていると言っても過言ではない。通常国会で院内外の闘いを通して「安全保障の大転換」である「安保3文書」の改定を許さず、その延長で集団的自衛権の行使を可能にした安保法「改正」の問題点も国民に可視化する闘いが求められている。
   

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