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●2020年12月号
■ 国民の命と暮らしを守る政治へ転換を
    小笠原福司

■ 1.コロナ不況の深まり

内閣府が11月16日発表した2020年7〜9月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比5.0%増(前年7〜9月期を5.8%下回る水準)、この成長が1年間続いた場合の年率換算で21.4%増となった。
   

(図表1・クリックで拡大します)
   
内実は新型コロナウイルスの感染拡大で戦後最悪の落ち込みとなった4〜6月期(年率28.8%減)の反動という側面が大きく、しかもその大幅下落分さえ回復できていないことは極めて深刻である。GDPの半分超を占める個人消費は前期比4.7%増で、外食や娯楽サービス、自動車、宿泊が増加した。輸出は米国や中国向けの自動車が好調で7.0%増(ちなみに、前年同期と比べて個人消費は7.2%減・額では22兆円の減少。輸出は15.7%減)。輸入は9.8%減に急落(前期のマスクやパソコンなどが一服)。輸出から輸入を差し引いた外需(「純輸出」)の寄与度は4〜6月期は3.3%のマイナスだったが、プラス2.9%に改善した。
   
一方、個人消費と並ぶ内需の柱の設備投資は3.4%減。コロナ収束の道筋が見えない中、企業マインドは冷え込んでいる。住宅も7.9%減と大幅に落ち込んだ。
   
7〜9月期の年換算の実質GDP実額は508兆円。実額は4〜6月期に43兆円減少したが、水準でみればそのうちの半分程度の24兆円を取り戻したに過ぎない。なお、1年前の7〜9月期に比べ、実質GDP実額は32兆円の減となっている。
   
経済回復の水準は低く、年末一時金の減、感染拡大による外出を控えるなど個人消費が冷え込む予測も出されている。そして、中小・零細企業の間では、廃業を早めるところが出て、失業の増加のペースが高まる恐れが指摘されている。だけでなく20年10〜12月期から21年1〜3月期にかけて再びマイナスの成長に陥る「『二番底』のリスクもある」との警戒も出されている(野村総合研究所・木内登英氏、11月15日 日経)。
   
   

■ 2.菅政権の2カ月を問う

本誌11月号巻頭言で、「1. 菅政権の性格とその政治を問う」の文末で、「コロナ禍にあって早晩、この矛盾は国民との対立を否応なしに激化させる」と述べた。菅政権発足から2カ月、「国民の命と健康を最優先に守り抜く」と所信表明演説で述べた菅首相だが、新型コロナウイルス対策は「経済重視」が重点で、真に命と暮らしを守る対策がおざなりになっている。
   
感染拡大の懸念を無視して肝いりの経済対策として「GoToトラベル」を強行した結果、全国の新規感染者数は過去最多を連日更新。ついに2000人の大台を突破し、22日まで2000人超えは5日連続となった。4〜5月の緊急事態宣言下の最大値の優に3倍超え、医療体制のひっ迫を招く結果となった。しかし、国民への感染対策に至っては「静かなマスク会食」「キャンペーンの活用は国民の判断」などと菅首相を筆頭に政府の責任を放棄し、自己責任が強要された。
   
厚労省管轄の感染対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」は19日、「何もしなければ不作為で政府は責任を取らなければならなくなるのではないか」などと新たな対応を政府に迫った。また、医療機関がひっ迫することへの強い危機感を背景に「事業を一度中断するという決断をしていただけないか」(東京都医師会会長尾崎治夫)と医療界からも声が上がった。
   
こうした世論を受けた国会における野党の追及、さらに新型コロナウイルス分科会が20日に緊急提言(感染拡大地域の適用除外など)を出したことで、ついに菅首相は21日、「GoToトラベル」の運用見直し、感染拡大地域を目的とする旅行の新規予約の一時停止などを要請する考えを示した(但し、対象地域や開始時期は都道府県知事の判断に委ねられる見通しで、ここでも国の責任放棄の姿勢が垣間見れる)。「第三波」も人災であり、弱肉強食の新自由主義を是とする本質がむき出しといえる。
   
次に、菅首相が日本学術会議の会員候補6人を任命しなかった問題について、11月号で学問の自由と民主主義、全体主義への危険な流れと述べた。
   
10月26日国会で菅首相は所信表明演説を行ったが、そこでは任命拒否については一言も触れず、代わりに21時からのNHK番組に出演した。そこで、一部大学に集中している、若手や地方が少ない、多様性に欠けるなどといずれも的外れな学術会議の「あり方」批判に論点ずらしを図った。が後にこれが墓穴を掘ることになったのはご承知のとおりである。
   
しかし、その前日のNHK政党討論会で、自民党を代表して出席した柴山昌彦・幹事長代理は、2017年に防衛省の「安全保障技術研究推進制度」の研究資金助成に学術会議が強い懸念を示す声明を公表したことを捉えて、軍用民用の境界が区別しがたくなっている「デュアル・ユース」研究を学術会議が妨げているという趣旨の批判を行っていた(なお、同様な趣旨で自民党の下村博文政調会長が、毎日新聞11月10日付デジタル版のインタビューで「軍事研究否定なら、行政機関から外れるべき」と学術会議を攻撃している)。学術会議前会長・山極寿一氏(2020年9月まで6年間京都大学総長)は、「政府はこれ(17年3月24日の学術会議「軍事的安全保障研究に関する声明」――引用者)が気に入らなかったようで、会長になってから私は度々『政府に協力的でない』と不満を表明されてきた」と述べている(京都新聞、10月26日)。
   
日本学術会議は、戦前、科学者の組織が独立性を奪われ、軍事研究・戦争に総動員された痛苦の教訓を踏まえ、学問の自由を守るという立場から軍事研究に反対をする声明を出してきた。下村氏の発言はこうした学術会議の姿勢を真っ向から否定をするもので、政府の意に沿わない組織は行政機関から排除するという恫喝そのものである。まさに任命拒否の“本音”が表れている。すでに菅首相は説明を二転、三転させ任命拒否の根拠は総崩れとなっている。
   
学会・大学関係者だけでも述べ950を超える団体が抗議の声を上げている。政府はその誤りを認め、6人を任命し、違憲・違法状態にある現状を是正すべきである(6名は安倍政権が強行した特定秘密保護法、安全保障法制、「共謀罪」法、改憲の策動などに疑義を呈した方々である)。
   
   

■ 3.野党共闘の深化をどう進めるか

これまで述べてきた菅政権の2カ月間の主要な攻防の中で、野党共闘は国会内閉会中も衆参の各委員会での審査に臨み、野党国対連絡会議や野党合同ヒアリングで菅政権に対峙してきた。しかし、野党第一党の新立憲(以下、立憲と略す)の菅政権に対峙する体系的な基本政策が見えない、発信されているのかと感じるのは筆者だけだろうか。 ここでは毎日新聞10月30日付の「政治プレミア」に掲載された江田憲司・立憲代表代行のインタビューから探ってみたい。
   
江田氏は、アベノミクスは結局、強い者をさらに強くし、金持ちをさらに大金持ちにしただけだ。期待されたトリクルダウンは起きず、逆に格差や貧困が広がった。政府は雇用が増えたと言うが、非正規雇用が太宗を占め、実質賃金が下がり、可処分所得が減った結果、消費が減退した。そこに昨年秋、消費税率の10%への引上げがあり、経済が基礎体力を失っているところに新型コロナウイルス禍が襲い、経済は二重苦、三重苦の状態だ、と分析する。
   
そこで、立憲の対抗軸は、

  1. 減税と「ベーシックサービス」の充実(時限的な消費税や所得税の減免、低所得者層給付金等の選択肢、あるいはその組み合わせで消費を喚起する。医療、介護、子育て、年金など人間が生きていく上で不可欠な公的サービスに財源を重点的に配分し、「将来不安」を解消していく)。
     
  2. 法人税、所得税の不公平をなくす(財源が問題になるが、自民党政権のように逆進性がある消費税に頼るのではなく、法人税、所得税の不公平を是正することで財源を生み出す。法人税率を所得税と同様の累進課税とする。大企業は増税、中小企業は減税になる。所得への課税は、応能負担原則にそって金融所得課税の税率を少なくとも30%にする。所得税の累進率も強化する。以上の不公平是正で消費税5%に減税する財源を捻出する。これはコロナ収束後も行い、5%は据え置く)。
     
  3. 内需主導の地域分散・分権型経済の実現(地域に小規模な太陽光、水力、風力の発電会社をつくり、ITを活用したスマートグリットでつなぎ、地産地消の効率的なエネルギー生産・消費ネットワークをつくる。このノウハウを活用して、医療、介護、福祉、保育、教育、農業などのネットワークを「地方分権」のもとにつくる。そのための権限、財源を中央から地方へ大胆に委譲する)。

そして、自己責任を強調する社会ではなく、過度に競争や効率性にとらわれる経済でもなく、助け合い、支え合う、社会的弱者に温かい、憲法で保障する最低限の文化的生活を営めるような制度をつくることが政治の責任だ。と述べている。
   
この江田氏の提起は、11月号でも紹介したが、市民連合の要望書―いのちと人間の尊厳を守る「選択肢」の提示を―という「15項目」の背骨にもなり得る社民主義的な対抗軸と言えるのではないだろうか。今後、この提起も含めてさらに野党共闘の中において総選挙に向けた「連立政権政策」(仮称)づくりとセットで小選挙区の野党統一候補づくりを急ぐことである。
   
さて、社民党は11月14日臨時大会を開催し、1号議案を賛成84人、反対75人、保留8人で可決した。
   
第1号議案は、民主党分裂時のような対立と遺恨を残すことにならないよう、「社会民主党を残し、社会民主主義の実現に取り組んでいく」道と、「『よびかけ』に応えて、立憲民主党へ合流し、社会民主主義の継承・発展をめざす」道のいずれも理解し合うとした。どちらもイバラの道だが、寛容で多様性を認める社会民主主義の実践領域の複線化である(「社会新報」11月18日号、主張)と議案の要旨が述べられている。
   
2月の臨時大会以降、コロナ禍を挟んで9カ月あまり党内討論が積み上げられてきた結果として、賛否が拮抗し、結果として2つの政党に分かれることになった。その要因含めた総括はこれからとなるが、「菅政権の打倒、命と暮らし、尊厳を守る政治の実現は待ったなしだ。社民主義の理念・運動・政策を広めていく同志として、切磋琢磨しながら、それぞれの道を進んでいこう」(同右)と今後に向けての態度が述べられている。
   
衆院選が1年以内にあることを踏まえると、私たちは最低向こう5年間の政治を睨みつつ戦略を練り直すことが問われる。2025年が次の次の衆議院議員任期満了の年であり、参議院選挙がある。その間22年に参議院選挙、23年に統一自治体選がある。無論政治情勢の進展(階級闘争の激化)によっては衆院選が早まる可能性も十分にあるが、前述した野党の「連立政権政策」を土台にして自公政権に代わる野党連立政権の樹立を展望することになる。
   
その際に、如何に社民主義的政治・政策の実現に向けた勢力の共同闘争、結集を図り、連立政治に活かすかが問われる。現代資本主義の行き詰まりに起因して、今後の政治は支配階級の保守二大政党づくりと野党結集との対抗を軸に、今日以上に流動性をもって進むことは疑いない。当面、それを睨みつつそれぞれの党内における政策と運動、そして各級議員の候補者づくりを進め、思想的・精神的な影響力を広げることに全力を尽くすことではないだろうか。
   
   

■ 4.当面する課題を考える

第一には、国民の命を守るためにコロナ感染拡大を阻止することに全力を挙げることである。現在の「第三波」は、7〜8月の「第二波」が抑えられていないうちに到来したと指摘されている。「GoToトラベル」が感染拡大の「きっかけになった」というのは、専門家の共通した認識として示されている。感染リスクへの不安がある中で、国策として税金を投入して全国各地に人の流れをつくる政策を強行したことは厳しく検証すべき点である。
   
もともと同事業には、小規模事業者には恩恵がないという問題があった。苦境に立つ観光・飲食業者には、直接支援が行き届く別の仕組みを検討すべきではないか。それも地域ごとの事情に見合ったやり方で行うことではないだろうか。
   
また、感染を抑止することが、観光業をはじめ地域経済を安定させる土台となる。PCR検査の大幅な拡充(菅首相は所信表明演説で、「1日20万件の検査能力を確保します」と述べたが、厚労省の全国集計では、PCR検査実施人数はほぼ2万人台で推移とのこと)を自治体任せにせず国会でも議論されている「社会的検査」(医療機関、介護、福祉施設など)を全額国庫負担で支えることや、感染者に接触した人を追跡できる保健所体制を強化することである。
   
さらに医療機関のコロナ対応支援のために国が設けた「緊急包括支援交付金」総額約3兆円は10月末時点で2割弱しか現場に届いていないとのこと。これでは医療現場の疲弊は打開できない。コロナの影響で赤字に苦しむ医療機関への減収補填の実現を求めていくことである。
   
第二には、雇用の悪化を阻止することである。総務省が10月30日発表した9月の雇用統計で、休業者は197万人で、新型コロナ危機後で初めて200万人を下回った。一時は600万人近くに上ったが、ほぼコロナ前の水準に戻った。総務省の分析では、急増した休業者のうち、失業したのは2〜4%程度。政府が企業の雇用調整維持を支援する雇用調整助成金を拡充した効果もあり、多くは職場に戻ったとみられるという。
   
同省が30日に発表した9月の完全失業率(季節調整値)は、前月と同じ3.0%だった。ただ、パートや契約社員など非正規労働者は前年同月より23万人減っており、非正規に占める割合が高い女性への影響が大きくなっている。また、厚労省が発表した9月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月より0.01ポイント低い1.03倍で、9カ月連続で悪化した。新規求人数は、前年同月比17.3%減だった。なかでも、宿泊・飲食サービス業や生活関連サービス・娯楽業は3割超の減少が続いている。
   
先ほど休業者が職場に戻ったと述べたが、戻った職場でのリストラも相次いでいる。詳細は、別稿の菅原論文を参照頂きたいが、東京商工リサーチの集計によると早期・希望退職者の募集が10月末までで2019年通年(35社)を2倍以上上回る72社で募集の開示が行われ、対象人数も昨年通期を上回る1万4095人に膨れ上がっている。70社を超えたのは、リーマン・ショック明けの2010年(85社)以来、10年ぶりの水準とのこと。なお、特徴は本決算が黒字だった企業でも、16社が直近の四半期決算で赤字に転落した。新型コロナで短期間で一気に需要が消失した企業を中心に実施が目立つとのことである。
   
リストラは単に非正規労働者のみならず上場企業にも確実に押し寄せている。年末から来年にかけての失業者の増大を許さない連合を始めとした労働運動の社会的な役割がいよいよ問われる情勢となっている。
   
最後に、21春闘に向けて連合は、「雇用も、賃上げも、双方ともしっかりとしたものに反転させる、その正念場に立たされている」(神津会長)と、「定昇(2%)+ 2%程度のベア要求」を中央執行委員会で決定し、討論集会を経て賃上げ闘争を闘い抜く方向で討論を開始している。全労連も賃上げは月額2万5000円以上、時間給1500円以上、全国一律最賃時給1500円を掲げている。
   
組織労働者が雇用も賃上げも闘い抜くことで、国民的な命と暮らしを守る運動へと繋げ、広げることが求められている。
   
(11月22日)
   
   

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