■ サイト内検索


AND OR
 
 
 月刊『社会主義』
 過去の特集テーマは
こちら
■ 2024年
■ 2023年
■ 2022年
■ 2021年
■ 2020年
■ 2019年
■ 2018年
■ 2017年
■ 2016年
■ 2015年
■ 2014年
■ 2013年
■ 2012年
■ 2011年
■ 2010年
■ 2009年
■ 2008年
■ 2007年
■ 2006年
■ 2005年
■ 2004年
■ 2003年
■ 2002年
■ 2001年
■ 2000年
■ 1999年
■ 1998年


 


●2024年5月号
■ 解散総選挙に向けて
  ――野党は異なる選択肢の提示を――
    吉田 進

1月1日に発生した能登半島地震の被害は甚大であった。志賀町の海岸付近は60〜70センチほど地盤が隆起し、段差が生じて港の機能がマヒしている。3月に地元地方議員らと現地調査を行った社民党福島党首は記者団に対し、「志賀原発の再稼働はあり得ず、廃炉一択しかない」と述べた。能登半島地震は、自然災害の恐ろしさとともに原発推進政策の愚かさを教えている。
   
多くの国民が物価高のなかで苦しんでいるにもかかわらず、政治が機能不全に陥っている。自民党の裏金事件は一部の派閥幹部の党内処分などで幕引きすることができない事態となっている。岸田内閣は、国民の不信・批判に応えることができず通常国会はすでに終盤を迎えている。政治がこれほどまでに腐敗、劣化していたことに驚きを隠せない。最近では「戦後政治の転換点」「政権交代」などの言葉が聞かれるようになった。しかし、それは各野党が大同団結して戦い抜くことなくしては実現しない。
   
   

■ 1.自民党裏金事件

・(1)本質は「安倍政治」の悪弊
   
自民党派閥による裏金事件はいまだに真相が解明されていない。東京地検特捜部は高額の還流を受け政治資金収支報告書に記載していなかった一部議員や会計責任者らを起訴した。しかし、派閥の実務を仕切っていた幹部議員らの刑事責任は不問に付され、政治資金規正法の限界が改めて露呈した。
   
問題が起こると会計担当や秘書の責任にし、政治家は政治資金報告書を修正し、「記憶にない」「秘書に任せていた」を繰り返せばお咎めがない。そして、次の選挙に当選すれば「みそぎ」は済んだことにされる。こんなことが許されていいはずがない。民主主義のレベルが問われている。
   
「保革伯仲」「ねじれ国会」「政権交代」を経て、「決められる政治」が叫ばれ「安倍一強」政治が始まった。しかし、「決められる政治」は「強権政治」を意味し、議会制民主主義を形骸化させるものだった。国会議員や官僚が平気で嘘をつき、「忖度」という言葉が使われるようになった。多くの国民がみずからの政治選択の誤りに気づき、政治には「緊張感」が必要であると感じ始めている。裏金事件の本質は、「安倍政治」の悪弊が噴き出したものである。
   
岸田首相は自民党総裁としての責任を自覚しないまま事態の収拾を図ろうとしたが、国民は全く納得していない。国のトップがみずからの考えやビジョンを持たず、リーダーであり続けることを目的とするなら国民は不幸である。
   
   
   
・(2)決め手を欠く野党側の追及
   
偽証罪が問われない政治倫理審査会から、「参考人招致」「証人喚問」に発展させる戦略を描いた野党の対応も決め手を欠いた。野党側の追及でチグハグ感が浮き彫りになったが、結果的に相手側に「手を貸す」ことになるような質問も少なくなかった。辻元清美議員(参議院)らが、各当事者の弁明について違いや矛盾を厳しく追及したがこれが本筋であろう。自民党裏金事件は、起訴されなかった派閥幹部らの政治責任を含めた真相解明が何より重要である。真相解明なくして今後の対策などあり得ない。
   
こうしたなか、岸田首相みずからの総理就任パーティーに関して刑事告発された。制度の抜け穴を利用した悪質な脱法的行為であるとの指摘である。派閥からの裏金を、政治資金収支報告書に記載しなかった議員の税務調査と課税を求める声が沸き起った。確定申告の時期と重なり国民の怒りは頂点に達した。「政治には金がかかる」などと語る御用学者のコメントなど通用しない状況となった。
   
終盤国会では、真相解明、責任追及とともに政治資金規正法等の改正が焦点となる。政治資金に関する透明性、「連座制」などの罰則強化が論点である。野党は、国民が理解できるような具体案を示し争点化しなくてはならない。「この際、『規正法』を、議員の行動を制限する意味の『規制法』に改称してはどうか。かけ声ばかりの自民党が自浄努力を払えないなら、徹底的に法の網をかぶせることでしか事態の改善は望めない」(2月27日信濃毎日新聞社説)との提起に賛成である。
   
国民の自民党に対する不信は極限に達し、内閣支持率は20%前後が続いているが、野党の支持率もあまり変化していない。野党が悪質な自民党に対する「受け皿」となり得ていないからである。いつ解散総選挙となっても不思議ではない状態だ。野党側の戦う態勢構築が急務である。
   
   

■ 2.山積する重要法案の審議

自民党裏金事件が大きな政治問題になったため、その他の課題の国会審議が不十分なまま現在に至っている。いずれの法案も重要であり、十分な審議が強く求められている。
   
   
   
・(1)少子化対策
   
厚生労働省の人口動態統計の速報値によれば、23年の出生数は過去最少の75万8631人であった。初めて80万人を割った22年から5.1%減少した。
   
少子化対策は「待ったなし」の情況であるが、岸田内閣が示した政策は児童手当拡充、多子世帯への大学授業料無償化など現金給付を柱にしたものとなっている。これに対し、「即効性が低い」「単なる家計支援でありバラマキである」などの批判が出た。児童手当拡充などを否定するものではないが、重要なのは子育て世代の生活安定であり、大幅賃上げ、雇用改革である。将来に夢や希望を持てない若者が子どもを産み育てるはずがない。低所得者層の底上げなど若者の将来不安の解消、長時間労働の改善や男性の育休取得推進など、子育てを支えるための抜本的な改革が重要である。また、子育て世代の東京一極集中を避けるため、地方での賃金上昇や男女格差是正を国が主導すべきだ。
   
政府は少子化対策の財源について、「子ども・子育て支援金」と呼び、「実質的な負担増は生じない」と繰り返す。国民の批判が強まると、「1人当たり月平均500円弱」との試算を示したがおおざっぱすぎて説明になっていない。「実質負担ゼロ」の根拠は、賃上げだと言う。物価高が続く中で、実質賃金はマイナスが続いている。このような姑息な政策説明は根本から間違っている。
   
少子化対策は、国の最重要課題の1つである。子どもを大事にしない国に未来はない。であるなら、言葉遊びやごまかしでなく、中長期的に抜本的な制度を作り上げ、安定財源の確保、その負担をどう社会で分かち合うのか説明し、議論を尽くすべきである。そのうえで国民に協力を求めるのであれば現状のような混乱は生まれるはずがない。
   
   
   
・(2)「防衛装備品」の輸出
   
自民・公明間で考え方が対立した次期戦闘機の輸出を巡る協議は決して小さな問題ではない。日本はF2戦闘機の後継機となる次期戦闘機について、英国・イタリアとの共同開発に合意している。「防衛整備移転三原則」に照らせば、日本はこの戦闘機を第三国に売れないから輸出解禁にかじを切るというものである。日米両政府は、防衛整備品の共同開発や生産に向けた協議体新設に合意し、5月中にも協議を開始する。岸田首相は、防衛産業を再生し、兵器を売って稼ぐ方策を「国益」と言い切っている。
   
「防衛装備品」などという呼び方をしているが、要は「殺傷兵器」のことである。ウクライナやガザのような惨劇に日本製の兵器が加担することを意味する。武力の行使による紛争解決を否定する戦後日本の立脚点を覆すことにもつながる。最大の問題は、自民・公明間の協議にまかせ、野党が結束して真正面から反対できなかった点である。
   
   
   
・(3)着々と進む軍備拡大
   
裏金問題で揺れる政界の裏側で防衛力整備計画(23〜27年度)が着々と進められている。防衛費はこの2年間で一気に膨張し、子どもの教育などに充てる文教・科学振興費や公共事業費を抜き去った。「子ども・子育て支援」の財源1兆円すら国民から徴収しないと賄えないなか、5年間で総額43兆円の防衛費は今一度見直すべきである。
   
全国の自衛隊施設約2万棟を整備する4兆円は、いま反対の声が上がっている大阪・関西万博(会場建設費最大2350億円)の比ではない。「粘り強く戦う態勢を確保」するために爆撃に耐える自衛隊主要司令部を地下化するというものである。5年間で5兆円を投じる敵基地攻撃用ミサイルも、全国に130棟新設する火薬庫も「戦争前夜」のような計画だ。すでに沖縄県(南西諸島)では、それらが次々と配備され島の「要塞化」が急速に進められている。
   
   
   
・(4)米軍と自衛隊の一体的運用
   
岸田首相が訪米した。ワシントンで開いた日米首脳会談で、在日米軍と自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」の常設を共同文書に盛り込んだ。自衛隊の「敵基地攻撃能力」保有のうえに、「台湾有事」などに際して共同対処するというものである。米軍と自衛隊の一体的運用は、日本の防衛政策を180度転換させる。米国は第二次世界大戦以降も何度となく戦争をしてきた国である。圧倒的な軍事力を持つ米軍の「指揮下」に自衛隊が入ることを意味する。「戦争放棄」を国是にしてきた日本が、米国の戦争に自動的に参戦させられる危険が差し迫っている。
   
欠陥機オスプレイに関し米軍および陸上自衛隊は飛行を再開させた。昨年11月屋久島沖で起きた8人死亡墜落事故を受け全世界で飛行停止させていたものを、事故原因について詳細を伏せたままの再開である。佐賀県、千葉県など配備先の地域では安全性への懸念が高まっている。
   
   
   
・(5)地方自治法などの改悪
   
3月1日、政府は地方自治法改正案を閣議決定した。災害や未知の感染症など非常事態であれば、個別の法律に規定がなくても、国民の生命保護に必要な対策の実施を国が自治体に指示できるようにするものである。自治体は従う法的義務を負う。中央集権体制を強化する内容であり、「地方分権」に逆行するとの批判は当然である。そもそも、2000年施行の地方分権一括法は、国と自治体の関係を「上下・主従」から「対等・協力」に改めている。
   
能登半島地震も法案提出の背景になっているが、今度の災害の教訓は国の権限強化などではない。各地で道路が寸断されるなかでの緊急対応のあり方、原発被害についての情報公開等が今後の課題である。
   
米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、政府が沖縄県に代わって軟弱地盤の改良工事に必要な設計変更を承認する代執行に踏み切ったことも法案提出と無関係ではないと言われているが、沖縄県民の意思を踏みにじる代執行を正当化させることなどできない。
   
重要経済安保情報保護・活用法案が今国会に提出されている。特定秘密保護法は、外交、防衛、スパイ防止、テロ防止の4分野に限定して制定されたが、新たに経済安保が加わるというものである。秘密法制の拡大は、国による情報の統制と監視強化につながる危険性が高い。
   
仕事で子どもと接する人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」の制度づくりも同じである。子どもの安全は大事であるが、曖昧な基準で運用されれば、憲法が保障するプライバシーや人権が侵害される恐れがある。
   
また、農業基本法改正案も問題点が多い。食料供給不足への対応で政府が農家に生産転換を指示できるようにするというが、食料自給率低下を放置してきた政治の責任を放置したままで対処できるはずがない。いずれの法案も十分な審議が尽くされてはいない。
   
   

■ 3.解散総選挙にむけて

・(1)焦点は「野党共闘」
   
解散総選挙が近づいている。「一本化されれば相当厳しい状況になる」という声がマスコミをはじめ自民党内からも出ている。だが、「一本化されれば」が前提である。最大の争点は全国289の小選挙区であり、「野党共闘」の成否が勝敗を決める。相手側は、さまざまな戦術を駆使して「野党共闘」を妨害している。「共産党排除」を打ち出す連合や、改憲を自民党に迫る一部野党の動きも候補者一本化に大きな影響を与えている。こうしたなか、4月28日投開票の衆議院3補欠選挙のゆくえが注目されている。
   
   
   
・(2)不十分な野党側の態勢
   
政府・自民党のガバナンスが壊れ、「末期症状」に陥っている岸田政権であるが、それでも選挙に関しては甘く見てはならない。私の住んでいる北信越ブロック(衆議院選挙はブロック比例制であるため各ブロックの情勢が重要)も野党側にとって厳しい情勢と言わざるを得ない。全体では18の小選挙区があるが、長い間「保守王国」と言われてきた県における野党の議席獲得は容易ではない。野党が議席を確保している新潟県、長野県においても、この間の「野党共闘」後退のなかで厳しい戦いは避けられない。
   
全国的には、都市部の戦いは自民党裏金事件批判などが反映しやすいと見られている。しかし、その場合でも「1対1」となる選挙構図が作られることは最低条件であろう。いずれにしても、全国の小選挙区をつぶさに点検したとき安易な情勢判断などできない。
   
「次の選挙では政権交代を目指さない」と言っていた野党幹部が、「政権交代を目指す」と表明した。当然のことではあるが、単に「目指す」と言うだけでは不十分である。どういう政権を目指すのか(政権構想)、どのような目標を掲げるのか(政策、連立政権であれば共通政策)について語らなければ国民は選択しようがない。野党が、「異なる選択肢を示す」ことが今ほど重要な時はない。
   
国民の中における多数派は既存の各政党ではなく、「政治に期待できない」「選挙などには行かない」であることを認識しなければ情勢判断を誤ってしまう。
   
   
   
・(3)今こそ大衆運動の強化を
   
安保法制を巡って盛り上がった2015年と比較するつもりはないが、これほどまでに大衆的な運動が高揚しない原因はどこにあるのか。自民党裏金事件に対する国民批判は、かつて経験したことがないほど大きいにもかかわらず大衆運動になり得ていない。長野県内においても、パレスチナ問題、自民党裏金問題などで集会やデモを取り組んできたが運動の広がりが弱いと言わざるを得ない。
   
こうした反省のうえに、「6・2市民アクションin信州」を計画している。県労組会議・1000人委員会、県労連・九条の会などが事務局となった松本駅前での集会・デモである。「裏金問題」、敵基地攻撃能力・南西諸島ミサイル配備、イスラエル・パレスチナ戦争即時停戦、原発推進政策の見直し、ジェンダー平等、物価高・国民のくらし等の課題について議論を深めながら準備を急いでいる。
   
この6・2行動と併行して、私の住んでいる地区では実行委員会を立ち上げ、小出裕章元京大助教を招いての講演会(仮称:「能登半島地震から原発を考える」)を準備している。
   
労働組合にとって職場や企業内の活動は基本であり、その延長線上に政治闘争がある。しかし、多くの産別で若者らが労働組合に加入しない実態が広がっていると聞く。労働者1人ひとりが政治に無関心とは思わないが、労働組合の運動としては不十分である。「労働者に依拠する」「労働組合との連携」は、従来のような「機関決定方式」ではなく労働者の心に響くような党の政策や日常活動が問われる時代になっている。
   
かつて、長野県評(現在の平和・人権・環境労働組合会議)は、不当解雇を受けた「国労闘争団」に対する激励交流団派遣、沖縄平和行進への参加を長期にわたって取り組んだ。激励交流団で紋別市、美幌町を訪れた組合員はのべ1000人を超え、沖縄平和行進は今も毎年多くの若者たちが参加している。ここに参加した人たちがみずからの単組で組合活動を担うようになり現在に至っている。こうした地道な努力があらためて問われている。
   
情勢が厳しくても諦めたら情勢はさらに悪化する。野党にとって絶好のチャンスを逃すことになれば、「失われた○○年」と揶揄される歴史を再び作ってしまう。目の前の課題から逃げずに、今できることをみんなで力を合わせてやり抜くことが何よりも重要である。
   
(4月15日)
   
   

本サイトに掲載されている記事・写真の無断転載を禁じます。
Copyright (c) 2024 Socialist Association All rights reserved.
社会主義協会
101-0051東京都千代田区神田神保町2-20-32 アイエムビル301
TEL 03-3221-7881
FAX 03-3221-7897