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●2023年9月号
■ 当面する政治情勢
    吉田 進

岸田内閣に対する不支持が顕著となってきた。臨時国会、内閣改造、解散総選挙など政治・政局が大きく動き出す可能性が高まっている。
   
「解散する大義がない」などと言う人がいるが、大義のない解散は過去にも多くあった。「バカヤロー解散」(1953年吉田内閣)、「死んだふり解散」(1986年中曽根内閣)などである。良いとか悪いとかは別にして、政権を握っている者がみずからの権力維持のために「解散権」を行使するのは当然である。総選挙で、国民に対し「争点」を明確にできるかどうかは、与野党を問わず政治の責任である。与野党間において争点がないなどという政治情勢は基本的にあり得ない。
   
解散時期は予想する以外ないが、「年内解散」があると見るのが政治の世界では常識である。年を越せば、来年の岸田総裁の任期が近づき、徐々に追い詰められた雰囲気が生まれる。「年内解散」を前提に運動を進める以外にない。
   
   

■1.通常国会を振り返って

本年1月23日召集された第211通常国会が6月21日に閉幕した。 岸田首相は、一昨年10月、初の所信表明演説で「国民に納得感を持ってもらえる丁寧な説明を基本とします。国民の信頼と共感を得られる政治が必要です」と述べた。その言葉と裏腹に、先の通常国会で防衛力強化、原発回帰、異次元の少子化対策などの重要政策を国民的議論がないまま次々と決めた。
   
国会での論戦を避け、まともな答弁もしない国のリーダーが国民から支持されるはずがない。「官僚言葉」をいくら並べても国民には届かない。現在の内閣支持率はそれらの反映である。「戦後最悪」と言われる先の通常国会をどう見るのかが重要である。
   
   
・(1) 安保防衛政策の大転換
   
岸田内閣は、戦後政治の基本を大転換させた。敵基地攻撃能力の保有、防衛費の大幅増額などの防衛政策である。ウクライナ戦争や「台湾有事」など国民の危機意識を煽りながら、歴代内閣が成しえなかった重要政策を強行成立させた。「国防色」に染まった防衛政策の決定は必ず将来に禍根を残す。
   
南西諸島において軍備増強が着々と進められている。「軍拡競争」の愚かさを批判するとき、「際限のない」という言葉がよく使われる。「台湾有事」に備えるために米軍と共同でミサイル配備を行う。相手は、それを攻撃目標に定め軍備を増強する。「戦争前夜」のような情況に住民の不安が高まる。自治体の要請を受け政府はシェルター設置を進める。「際限のない」軍拡競争に完全に陥っている。「シェルターに逃げなければならない事態になったらおしまいなのに……」という住民の言葉が重い。
   
安倍首相は「台湾有事は日本有事」と表明したが、先日訪台した麻生自民党副総裁は、「戦う覚悟が求められている」と述べた。
   
米国は第二次世界大戦以降も繰り返し戦争をしてきた歴史がある。日本は、78年前の敗戦で戦争の愚かさを嫌というほど思い知らされた国である。「米一辺倒」の安保防衛政策にこれ以上深入りして本当にいいのか。日本が進んでいる方向が本当に正しいのか。「核の傘」「抑止力」と言う前にその前提から考え直す時である。
   
防衛産業の生産基盤強化法は、武器を造る企業の設備投資と海外輸出に国が助成する内容であったが野党までが賛成し成立した。2014年安倍政権は、安保で協力関係にある国に対して救難、警戒など非戦闘の5分野で輸出可能とした。岸田首相はウクライナ戦争を機に、「侵略を受けている国に支援」を付け加えるよう主張し、「殺傷力のある装備」についても容認姿勢に転じた。
   
殺傷力のある武器で最たるものは戦闘機である。日本だけが第三国に輸出できないのは防衛産業にとって不利であるから解禁するというのはあまりにも短絡的である。「死の商人」とも呼ばれる武器輸出は、武力による紛争解決をみずからに禁じた戦後日本を変質させるものである。
   
8月は広島・長崎への原爆投下から78年の行事が各地で行われた。G7広島サミットの「広島ビジョン」が肯定した核抑止論について、「核軍縮に逆行する」「核抑止論からの脱却を」「核兵器禁止条約に参加すべき」など、岸田首相に批判的な意見がかつてなく多く聞かれた。
   
   
・(2) 自民党「保守派」の特異な価値観
   
岸田内閣が強行成立させた政策の根拠は民意と乖離したものであった。また、「世界の流れ」「時代の流れ」から大きく外れた特異な価値観に基づくものであった。
   
LGBT理解増進法案に関しては、2021年の与野党合意を完全に骨抜きにした。差別禁止条項を削除し、「不当な差別はあってはならない」と書き換えた。「不当でない差別」があるかのような意味不明のものに変質させてしまったのである。性的多数者の権利を、人権侵害に苦しむ性的少数者から守るかのような法案は本末転倒であり、かえって差別を助長する。グローバル化が進む経済界等からも、「(海外で説明するのが)恥ずかしい」と批判されている。
   
終盤国会で焦点となった入管難民法に関しても同様である。自民党内の「保守派」に配慮した対応とマスコミは言う。しかし、EUなどの国々では、移民や紛争地域からの難民受け入れに反対したり、人権を否定する政党は「保守」ではなく「極右」と呼ばれる。
   
彼らの考え方は、戦後教育を受けてきたごく普通の常識とあまりにもかけ離れている。外国の国籍を持つ人も共に地域を担う市民であることを条例で明示する、住民投票の資格を認めるという動きも自治体で始まっている。これに対し、街宣車や拡声器で「ここは日本だ」「中国に街を乗っ取られてしまう」と大声で抗議する人たちがいる。極端な排外主義であり「右翼」と呼ばれる。一方、論調は多少変わっているが、反対運動をする自民党系議員も増えている。両者は、基本方向では一致しており、結果的に議会で条例案が否決されるという事態も生まれている。
   
われわれの政治闘争は、国際社会の流れから1周も2周も遅れた自民党政治をまともな政治に転換させる闘いでもある。
   
   
・(3) 国会空洞化
   
法案の決定過程において国会の形骸化、国会無視が公然と行われた点も通常国会の特徴であった。政府提出法案60本のうち58本が成立した。事前に政府・与党間で調整を図るなかで実質的に決定させ、野党の対案や要求はほとんどが反映されない。議論を尽くし国民的合意を得る努力をせずに、国会で多数派という物理的事実に基づいてすべてを押し切る政権与党の姿は過去に例がない。十分な審議がないまま「手続きの場」と化した国会について、「空洞化」と批判されて当然である。
   
もともと岸田首相は、「日本をどのような国にしたいのか」という確固たる信条を持ってはおらず、政権に居座る以外のことは頭にないように見える。今国会でも薄っぺらな説明・答弁を繰り返し、国民の声や疑問に耳を傾けることは一度もなかった。
   
安倍元首相は明確な「国家像」があった。それは、「戦争のできる国」という極めて危険な時代錯誤のイデオロギーではあったが……。安倍首相でもできなかったことを、リーダーシップも権力基盤もない岸田首相が軽々とやってのけた点が逆に怖い。自公政権の暴走を一日も早く止めなくてはならない。当面は、与野党の力関係を少しでも変え、政治に緊張感を取り戻すことが重要である。
   
自民党、日本維新の会などの改憲勢力は、憲法審査会の毎週開催を執拗に行った。「改憲ありき」の露骨な策動はあまりに異様であった。改憲阻止の闘いがより重要な段階に差しかかっている。
   
   
・(4) 無責任な財源問題等の先送り
   
強行採決された法案に関して、肝心の具体策や裏付けとなる財源など多くが先送りされた点も通常国会の特徴であった。特に、防衛費増額の財源を巡る議論は全く不十分である。昨年12月に決めた「防衛力整備計画」で2027年までの5年間の防衛費を43兆円程度としたが、従来の水準からすれば約17兆円の増額となる。
   
防衛費の増額分は、歳出計画で3兆円強、決算剰余金(予算の使い残し)で3.5兆円程度、税外収入(税金以外の収入)で4.6兆円〜5兆円強を確保し、不足分を法人、所得、たばこの3税の増税で賄うこととなった。このうち、税外収入確保について定めたのが「防衛財源法」である。
   
選挙を意識した党利党略により、政府自民党は増税について今なお曖昧にしたままである。国民は細部を知らされていないが、1000兆円を超える赤字国債を抱える国の財政状況の中で、増税抜きの防衛力強化は基本的に不可能である。あまりにも不誠実で無責任な通常国会は、今後の反転攻勢にむけて忘れてはならない出発点でもある。
   
   

■2.臨時国会の焦点

9月から始まる臨時国会は、与野党ともに解散総選挙を睨んだ攻防となる。しかし、そのような「駆け引き」だけで推移する国会にしてはならない。
   
国民のくらしが日々深刻さを増している。総務省が発表した7月の消費者物価指数は前年同月から3.1%上昇した。前年を上回るのは23カ月連続である。特に、食料や日用品などの生活必需品の値上がりが目立つ。また、電気料金やガソリン価格の高騰は各家庭の負担増に直結している。
   
一方、物価変動を加味した実質賃金は前年比マイナスが続いている。今年の春闘は近年にない賃上げを実施した企業も多かったが、賃金の伸びは物価に追いついていない。困窮者のセーフティーネットも不十分さが浮き彫りになっている。
   
政府は、電気代やガソリン代の負担軽減策を実施してきたが、国民はその効果をほとんど感じていない。防衛費をはじめ膨張する国の歳出構造との矛盾も鮮明になっている。解散総選挙では、過去ほとんどの国政選挙でそうであったように、「国民のくらしを守る」という政治の原点があらためて問われることとなる。その前哨戦ともいえる臨時国会においても、それは最大の課題である。
   
マイナンバーカードを巡る混乱も臨時国会の課題である。マイナ保険証や公金受取口座、障害者手帳などでのひも付けミスが後を絶たない。国民の不信・不安が増大している。特に、健康保険証を来年秋に廃止する政府方針に対し、延期・撤回を求める声が多くの地方自治体等から上がっている。
   
臨時国会では少子化対策の中身、財源の問題が待ち受けている。コロナ禍で非正規労働の若者や単身の女性へと広がった生活困窮がいまだに改善されていない。少子化対策を言うのであれば、子育て支援だけでなく20〜30代を中心とした若者の生活水準底上げを視野に入れた政策が不可欠である。
   
岸田内閣は、通常国会で60年を超える原発運転を可能とする法律を成立させた。7月28日、関西電力は営業運転開始から48年が経過した高浜原発1号機を再稼働させた。山口県上関町では、使用済み核燃料の「中間貯蔵施設」建設に向けた動きが始まり、住民の不安が高まっている。高レベル放射性廃棄物の処分場受け入れを進める長崎県対馬市の対応も注目されている。また、東京電力福島第一原発にたまり続ける処理水の海洋放出の問題も山場を迎えている。12年前の原発事故の教訓など全く無視し、理念なき原発政策を推し進める岸田政権の迷走をこれ以上許してはならない。
   
   

■3.解散総選挙にむけて

岸田内閣の支持率低下、自民党内の権力争い、連立を組む自民・公明党間のきしみ。国内政治はますます混迷を深めている。
   
しかし、対抗する野党側は立憲民主党を中心とした結束が図れないまま、2016年から始まった野党共闘は大きく後退している。しかも従来と異なるのは、日本維新の会の存在である。いくつかの選挙区で日本維新の会が戦いに割り込んでくる可能性が高い。
   
日本維新の会の政治姿勢や政策は論理的には矛盾に満ちている。しかし、「身を切る改革」は国民感情として支持されていることを見逃してはならない。政権与党のみならず既成の野党に対する批判でもある。ここを見誤ると大きな過ちをおかすことになる。
   
   
・(1) 国民に異なる選択肢(政策)を
   
「候補者一本化」を巡って様々な議論、駆け引きが行われている。
   
2016年「安倍一強」と呼ばれた政治的力関係のなかで野党共闘が生まれた。「小選挙区制」という選挙制度も背景としてあったが、当時の政治情勢のなかでは「必然」であった。この取り組みは、自公政権の暴走に対抗する「政治的統一戦線」の第一歩と位置付けてもいい。あれから8年余りが経過し、何回かの国政選挙が行われた。しかし、与野党の力関係や政治情勢は改善されないばかりか悪い方向に進んでいる。
   
「非自民・非共産の枠組み」「立憲民主党・国民民主党の共闘」などの主張がある。現場の実態を見ようとしない「机上の空論」である。289のそれぞれの1人区における情勢を冷静に分析すれば容易に間違いに気づく。分かっていながら、そのような主張をしているのであれば野党共闘に対する妨害、「利敵行為」以外の何ものでもない。
   
どんなに困難であっても、野党共闘を追求する以外に道はない。違和感を覚えるのは、「候補者一本化」だけが独り歩きしている点である。野党第一党である立憲民主党が旗を振って、たぶん総選挙の最大の争点になるであろう「軍備拡大のための大増税反対」を高く掲げ、他の野党はもちろん労働者・国民に決起を呼びかけるべきである。本来、選挙は「異なる選択肢」を掲げてその是非を有権者に問う行為である。一致する共通政策は可能な限り順次増やしていけばいい。「候補者一本化」は、その過程で決まる。手順を間違えると野党共闘は成立しない。丁寧な取り組みが必要である。
   
お互いの信頼関係により野党共闘は成立する。候補者を出さない政党はもちろん、国会議員を有しない政党、地域政党なども野党共闘を戦う一員である。対等・平等の原則を曲げてはならない。選挙区と比例区の運動を機械的に分けたのでは野党共闘は成り立たない。野党第一党のリーダーシップは、ブレない政策とともに全体をとりまとめる「懐の深さ」である。そして、院外の大衆運動は野党共闘の重要なキーワードである。
   
   
・(2) 「市民と野党の共闘」
   
いくつかの県や選挙区では市民団体などが加わり、「野党共闘」を「市民と野党の共闘」に発展させている。政党間の協議は政治的駆け引きとなりやすいが、市民団体が入ることで「国民目線」の議論や運動に変化する。かつての労働運動や政治運動と異なる運営に戸惑いを感じるかもしれないが避けて通れない。「市民」が加わると、従来のような既成政党や労働組合だけの運動ではなくなり、幅広い運動となっていく。
   
8月18日、長野県内の市民団体でつくる「信州市民連合」が、立憲民主、共産、社民各党の代表を交えての意見交換会を開催した。市民連合と各野党の間で政策合意を図るための議論(政策協定書)は大枠で合意された。また、全国的な野党共闘の遅れを取り戻すための、各党中央への要請書も手渡した。それぞれの党において、中央との調整が必要な点も明らかになったが、運動の方向性は固まりつつある。9月には、「国政を語る会」なども計画されているが、有権者に見える形での運動にすることが何よりも重要である。
   
市民運動との共闘は一朝一夕では生まれないが、われわれの周りには現に多くの市民運動が存在している。彼らは少なからず現状に批判的である。大衆運動を大事にする人々であるが、政治闘争の必要性も感じ始めている。今からでも遅くない。彼らとつながっていく努力を全国各地から始めなくてはならない。
   
(8月20日)
   
   

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