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●2022年8月号
■ 参議院選挙を振り返って
    吉田 進

7月10日午後8時、参議院選挙の投票が締め切られた。「自民・公明の与党が過半数を大きく上回る見通し」「改憲勢力が参議院でも3分の2確保」などの速報が流れた。
   
岸田首相は、憲法改正の国会発議に関して、「改憲に向けた民意が示された」「できるだけ早く発議に至る取り組みを進めていく」などと語った。国民生活、外交・防衛等の課題も山積しており、今後の政治動向は極めて重要な段階に移ったと言える。戦後政治の中でもっとも大きな転換点となる危険性もはらんでいる。 しかし、どんな情況にあっても「諦め」「無関心」は許されない。選挙戦の総括を徹底し、次の目標に向かっていく以外にない。選挙直後ということもあり、総括や今後の方針を詳しく提起することはできないが、少しでも参考になるような感想を述べてみたい。
   
   

■ 驚くべき選挙結果

第26回参議院選挙の結果は、自民党が単独で改選過半数の63議席を確保、32ある1人区で28勝4敗と野党を圧倒して大勝した。改選23議席の立憲民主党は17議席に後退した。公明党は1減の13議席。日本維新の会は倍増の12議席、比例で立憲民主党を上回った。共産党は4、国民民主党は5でいずれも議席を減らした。れいわ新選組は3議席。社民党は、1議席125万票を獲得し政党要件を確保した。
   
投票率は52.05%であった。過去2番目に低かった前回19年参議院選挙の48.80%を3.25ポイント上回った。2回連続の50%割れは回避したものの過去4番目の低さであった。
   
今回の選挙結果を含めた国会の勢力図は、あまりにも極端となり驚きを隠せない。安倍政権から始まった「一強多弱」の構図はより鮮明になった。衆議院465議席、参議院248議席(合計713議席)のうち、自民党は過半数を上回る381議席を占めた。そして、連立政権を組む公明党は59議席を維持している。だからこそ、次の総選挙(解散がない限り)まで、やろうと思えば何でもできる「黄金の三年間」などと公言しているのである。
   
   

■ 安倍元首相銃撃事件

投票日直前の8日、安倍元首相が奈良市で元自衛官の男に銃撃され死亡した。どのような理由があろうとも、暴力によって言論の自由を封殺する行為は絶対に許されない。民主主義の根幹を揺るがす「言論封殺」に対し、「言っても無駄」という空気が社会に蔓延していないか検証が必要という指摘もあった。警備態勢の問題点なども取り上げられている。犯行の動機など今なお不明な点が多いが、いずれにしても多くの国民が「不穏」を感じる悲惨な事件であった。
   
当然のこととして、与野党の枠を超えて非難の声が相次いだ。そして、この事件は参議院選挙に少なからず影響した。テレビ報道で事件の悲惨さは取り上げられて当然であるが、安倍元首相が「英雄」であるかのような論調の後に、「遺志を継ぐ」と弔いムードが醸し出されたことには違和感を覚えた。参議院選挙は、国の針路や自分たちの未来を決める重要な機会であり、情緒に訴えかけて世論を動員することがあってはならない。危機感を煽るような報道も良くない。
   
そもそも、強権的な政権運営で民主主義を壊し、社会を大きく分断させたのは安倍政権である。森友学園問題、「桜を見る会」をめぐる疑惑等で取り巻きや官僚が忖度して、公文書改ざんを繰り返したことは記憶に新しい。国会の虚偽答弁も数多くあった。安倍元首相の死を悼む気持ちと、歴代最長に及んだ首相としての功罪を検証することは別問題である。森友学園問題で公文書改ざんを強要された近畿財務局職員、赤木俊夫さんは良心の呵責に耐え切れず、みずから命を絶った。赤木さんの家族は、今なお真実の解明を求めているが安倍元首相は全く誠意を示さなかった。首相であろうが、財務局職員であろうが命の重さに変わりはない。
   
   

■ 選挙の争点は何だったのか

安倍元首相の銃撃事件で、選挙情勢は大きく変わってしまったが本来の争点は何であったのか。公示直前の世論調査(共同通信社)では、物価高対策、年金・医療・介護、子育て・少子化対策、外交・安全保障が上位を占めた。

また、岸田内閣を
支持する が57%、
支持しない が35%。
防衛費に関して
GDP2%以上増額、2%以内増額を合わせて 47%、
今のままでよい、減らすを合わせて 45%。
岸田首相の下での改憲に
賛成 が44%、
反対 も44%。
与野党の議席数について、
与党が野党を上回る が36%、
与野党伯仲が 46%、
与党と野党が逆転する が11%

であった。
   
2年余り続くコロナ禍は、格差と貧困を浮き彫りにした。政府の給付金や生活資金の貸し付けはその場しのぎにはなっても、構造的な問題の解消にはなりえないことが明らかになった。働く人の4割が非正規である。派遣切り、雇い止め、パートのシフト削減など彼らにしわ寄せが集中した。今年に入り、物価高騰がそこに追い打ちをかけている。
   
岸田政権は、発足時は「新しい資本主義」「分配」などの言葉を多用していたが、気が付いてみれば「安倍・菅政治」をそのまま踏襲しているだけある。「何もしない内閣」であるにもかかわらず、「決断」「実行」(自民党ポスター)の言葉に多くの国民は惑わされた。
   
新型コロナウイルス感染が拡大した20年度以降、巨額の予備費が計上されるようになった。通常は約5000億円の予備費が計上されるが、20年度補正予算で10兆円、21年度22年度の当初予算と合わせて3年で20兆円に達している。こうした予備費の乱用は、憲法八三条に反することは言うまでもない。このような異常事態が続いていること自体が国会の任務放棄である。好き勝手に使える巨額の予備費、政権にとってこれほど都合のいいことはない。改憲をめぐる焦点の1つ、緊急事態条項の先取りとも言える。緊急事態条項をめぐっては、よく私権の制限が指摘されるが、財政執行、国会審議を経ない立法行為にこそ問題の本質がある。多くの争点があったにもかかわらず、それが明確にならないままの選挙であった。
   
   

■ 野党共闘の後退

16年参議院選挙から始まった野党共闘は大きく後退した。通常国会で国民民主党は、政府の予算案に賛成した。露骨な政権へのすり寄りに他の野党は反発し、野党間の亀裂は深まった。元々、国民民主党は旧民社党の流れをくむ政党であり、政権へのすり寄り、野党共闘妨害は特別驚くべきことではない。問題は、こうした流れの中で、野党共闘の側も足踏みしてしまったことである。権力に対峙すべき勢力が動揺し、もう1つの針路、選択肢を示せなくて与党に勝てるはずはない。
   
そもそも、「野党は批判ばかり」と言われるほど野党は批判などしていない。足元を見られ、揺さぶられていることをなぜ分からないのか。先の世論調査も、与野党の緊張した政治を望む声が多いことを示している。異なる視点を生かしてこそ、良い政策が実現すると胸を張って主張すべきである。
   
今回の選挙結果の分析で、労働組合の影響力低下を指摘する声が上がっている。各産別候補の投票数も減少している。かつて、労働組合が組織内候補を擁立し、それぞれが競争し合う形で得票を積み上げ、野党が大きく躍進した時代があった。しかし、現在は「産別票」が、自民党などの「業界利益団体」と同類に見られ、メリット以上にデメリットが大きいと言われている。労働組合が支持した野党が苦戦した参議院選挙結果はそのことを如実に示している。「業界利益団体」ではなく、全国民、全労働者のための戦いと理解されるような明確な姿勢や政策を打ち出さない限り、この状況を乗り越えることはできない。非正規を含めた全労働者の大幅賃上げを要求してストライキをやるぐらいの覚悟が必要である。大幅賃上げに応えられない中小・零細企業への支援策も同時に政府に要求すべきである。
   
野党共闘は、巨大与党に勝つための最低条件である。野党がバラバラで勝てるはずがない。候補者一本化は図りたいが、共産党などと協議したくないなどという言い分は通用しない。政策が一致しないまま、野党間の駆け引きだけで調整すれば、与党の言う「野合」そのものになってしまう。このジレンマを克服しない限り、展望は開けない。
   
政党にとって日常活動は重要である。選挙の時だけ支持を訴えても有権者は応えてくれない。しかし、日常活動に関しては、各政党や市民団体によって大きな差がある。また、平和・人権・環境などに関する運動は総体的に低下している。選挙における共闘などの枠組みの前に、日常活動の強化が求められている。その中で、共闘も生まれるであろう。私の地区では、毎月「3の日スタンディング」を7年間続けている。さまざまな団体から毎回30人程度参加して来るが、選挙の際には相当の力を発揮している。「闘いを通じて団結」の原点に立ち返る以外ないのかもしれない。
   
   

■ 長野県における戦い

長野県における戦いもこれから総括という段階であるが、振り返って経過や教訓を報告したい。
   
長野県における野党共闘は、16年から始まった。その当時は共通政策の議論から出発し、候補者一本化を確認し、みんなで「力合わせ」をするという当たり前の共闘運動であった。しかし、中央段階において共産党との共闘を否定する動きが起き、県内の野党共闘にも影響が出るようになった。しかし、野党共闘の必要性、6年にわたって積み上げてきた信頼関係など共通する思いが多くの関係者の中にあった。
   
重要な役割を果たしたのは、信州市民連合である。各地区の市民連合、市民団体をとりまとめている信州市民連合が、県内各野党との間でそれぞれ「政策協定書」(内容は同じ)を結ぶこととなった。5月連休中のことである。予定より随分遅れたが、「ブリッジ方式」と呼ばれる方法であった。7項目の協定書は、国民生活、コロナ、子育て、ジェンダー平等、脱炭素社会、立憲主義、平和憲法等の課題を網羅するものの、分かり易く要約されたものであった。
   
これを受けて、信州市民連合はキックオフ集会や6.5集会(約800人が参加した総決起集会)を開催した。その後、本格的な選挙戦に入り、各地区集会、スタンディング、公示日行動、個人演説会、街頭演説会などに全力を挙げた。
   
結果は、杉尾秀哉候補(立・現)が43万票余を獲得し、自民候補に5万票を超える差をつけて勝利した。相手が知名度の高いタレント候補であったため苦しい戦いを余儀なくされた。日本維新の会候補者は10万票を超え、健闘した。
   
全国32の1人区の戦いが苦戦しているとの情報のなか、長野で負けるようなことになれば、野党共闘の流れは完全に止まってしまう。喜ぶのは政権与党だけである。絶対に負けられないという声も大きくなった。最後の粘りで何とか勝ち抜いた厳しい戦いであった。
   
   

■ 当面する政治課題

・1.反戦・平和の闘い
   
岸田内閣は、ウクライナ戦争に対する国民感情を利用して、懸案の防衛政策を一気に推し進めようとしている。「敵基地攻撃能力」は「反撃能力」と言い換えているが、どう考えても従来からの「専守防衛」とは異なる。むしろ、「先制攻撃」と読む方が正しい。「防衛費の倍増」は、日本の防衛費が10兆円を超えることを意味する。国会審議では、自民党の一部議員から、「実際にはその数倍必要」とのヤジがあった。中国との軍拡競争を想定しているのかもしれない。そんな道に突き進むことは断じて許してはならない。
   
近代戦争では、双方が「宣戦布告」して開戦するなどということはあり得ない。突発的な小さな軍事衝突が全面戦争に発展するのが常である。欧米にひたすら同調し、国境を接している国々に対し挑発的な言動を繰り返し、緊張を高め、軍事大国への道を突き進もうとしている岸田政権の外交・安全保障政策は危険極まりないと言わざるを得ない。われわれにとって、当面する重要課題である。
   
   
・2.改憲反対の統一戦線運動
   
参議院選挙の結果を受けて、憲法改正をめぐる動きが急になっている。自民党は自衛隊の明記や緊急事態条項の新設をはじめ4項目の改憲案を掲げている。岸田首相は「喫緊の課題」として推進の決意を述べている。
   
しかし、主権者である国民にその認識が広く共有されているとは言いがたい。参議院選挙でも改憲に関する議論がされたとは思えない。岸田首相自身、街頭演説で憲法に触れることはほとんどなかった。各種調査でも明らかなように、国民の切実な要求に根差して改憲が持ち上がっているわけではない。
   
安倍元首相は、改憲を「悲願」と述べていたが、自民党を中心とした一部勢力は改憲を目的化している。日本維新の会、国民民主党は、それに便乗する形でみずからの党勢拡大のために動いている。公明党は、自衛隊の九条明記に慎重な姿勢を崩してはいないが、ギリギリの場面では信用できない。
   
改憲問題はそう遠くない時期に山場を迎えるであろうが、ポイントは2つあると思う。1つは、運動の進め方として「改憲」対「改憲阻止」(護憲)という構図にしてはならないということである。そのような対立構図にしたら、多分負けるであろう。具体的な課題を通じて改憲の問題点、現行憲法の優位性を広げていくことが重要である。「改憲阻止」「護憲」と言わずに改憲を止める運動を押し進めるということである。改憲支持層も含めた国民の約6割が、「急ぐ必要はない」(参議院選直後の共同通信社世論調査)と考えているのであり、そこに焦点を絞った戦術が重要である。
   
もう1つのポイントは、国会内の力関係のみで押し切られないようすることである。政治の世界では、「数の力がすべて」とよく言われる。その通りであるが、それを言い訳にして「改憲やむなし」となるのであれば到底許されない。改憲勢力が、「改憲ありき」で強引に押し切ろうとするなら、こちらは「院外」の運動と結合して闘いを組まなければならない。改憲反対の野党、学者・文化人、市民運動、労働運動などによる幅広い統一戦線運動が必要である。
   
   
・3.岸田政権に対する闘いの継続
   
来年4月には統一自治体選挙が実施される。国政選挙とは異なるが、各政党にとっては、地方自治に関する重要な戦いである。同時に各政党にとっては、「足腰を強くする」ための不可欠の課題である。
   
地方自治体選挙は、国政選挙とは異なる難しさがある。「一票一票の積み上げ」がより求められる戦いであるが、参議院選挙総括と併行して早急に着手しなければならない。
   
岸田政権は選挙結果を踏まえて、「数の力で押し切る」政権運営を強めてくるであろうが、情勢はそれほど単純ではない。物価高はますます国民を苦しめるであろう。新型コロナは「第7波」を迎え拡大している。ウクライナ戦争の影響による世界経済の混乱が拡大している。どれ1つとっても、小手先で対応できる問題ではない。「驕り」「国会軽視」の政権に対し、国民の不安や不満がいつ噴き出すか分からない。こうした情勢にしっかり向き合い、岸田政権を追い詰めていく運動を粘り強く取り組むことが何より重要である。
   
「政権にフリーハンドを与えていいのか」との野党候補の演説の声が蘇ってくるが、この闘いは、さまざまな人たちの英知によって今後も継続・強化しなければならない。
   
(7月20日)
   

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