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●2021年11月号
■ 働く者の生活を守る経済政策実現を
    北村 巌

4年ぶりの衆議院総選挙が戦われた。8年間以上にわたる安倍・菅による新自由主義路線の経済政策で働く者の生活は疲弊し、マルクスが指摘した窮乏化法則の作用そのものである。これを転換するにはどのような経済政策が必要なのか考察してみたい。    
   

■ 岸田ビジョンの空手形

自民党の新総裁に選出され、総理大臣に就任した岸田文雄は、今回の総裁選を意識し、一昨年9月『岸田ビジョン――分断から協調へ』を出版した。この中で、岸田は自らの成長戦略として5つの柱を掲げた。

  1. 資本主義のあり方の見直し、
  2. 人材の重視、
  3. 集中から分散、
  4. 分断から協調、
  5. 技術・テクノロジーの重視

の5項目である。
   
資本主義のあり方の見直しについて、「日本型資本主義の復活」を目指すという。総理大臣になって「新しい資本主義」と変えたようだが、新しいのか復活なのか、大した具体的イメージはないようだ。岸田は短期的利益を重視する「功利主義」を批判し、渋沢栄一の合本主義を持ち上げる。「短期的利益の追求」批判は、企業経営者や金融関係者の間でもすでに十数年前から行われてきた事柄である。これは証券市場の課題であろうが、短期的利益追求批判を株式公開企業の四半期開示をやめる理由にしようとしている経営者の動きが国際的にあり、開示をしないようにしたい経営者の要求をそっと潜り込ませているのではないか。資本の立場からすると、なるべく高い増加率でかつ長期的に利益を上げ続けることが大切で、それが高株価ももたらすわけだが、四半期開示によって短期的な利益変動が株式市場の投資心理に影響するのは迷惑だ、というだけの話である。
   
その上で岸田は「日本型資本主義の復活」を目指すという。人材の重視でヒトを大切にするというのだが、労働環境を大切にする具体策はない。具体的な制度構築ではなく資本家の精神に期待する「公益資本主義論」のようなものでしかない。資本が利益追求せずに存在しうるのか、それを規制するには何が必要なのか、根本的な認識が欠如している。最近は「新しい資本主義」というが、何を目指しているのか全く曖昧である。おそらくは経団連や経産省の言うソサイエティ5.0のようなものになるのだろう。岸田に労働組合を強化する政策を求めるのは無理であろうが、例えば、ドイツのように労働者代表の一定の経営参加や労働者代表制というような具体策、あるいはコーポレート・ガバナンスの改革のための具体策といったものが岸田ビジョンにはない。
   
人間を人材と表現するところからして彼の人間観が、経済に寄与する「人材」が大切なのであり、その意味で、つまり搾取対象として「ヒトを大切にする」ことでしかないというのがわかる。
   
中間層の底上げという点で教育と住宅に焦点を当てるというのは当然であるが、大学授業料の「所得連動型授業料返還方式」が参考になるといった程度であったり、住宅政策はあくまで住宅ローン減税を中心にした持家政策であったり、勤労層にとって必要な公営住宅の拡充などは全く無視されている。
   
賃金についてはベースアップを実施した企業に税制面での優遇を行い、最低賃金の引き上げに取り組むとしている。賃金テーブルのベースアップという点に注目することは賃上げの本質的な部分であるが、企業への税制面での優遇というのが曖昧である。すでに法人税は大きく引き下げられており、そのもとで多少の税制優遇を行っても効果は薄いのではないか。岸田が目指すのは人材への投資(労働者の再教育)による生産性の向上である。多様性の尊重を掲げているが、女性の社会進出については日本の生産性の向上や活力向上につながっているという点からの評価であり、むしろ兼業・副業、フリーランスの推進という施策に結びつけている。男女の賃金格差の解消や正規化を希望する非正規労働者の声には応えていない。
   
集中から分散へということの眼目は宏池会が大平首相以来主張してきた「田園都市構想」ということらしいが、これも極めて抽象的である。現代版として「デジタル田園都市構想」としているが、高速インターネットをユニバーサルサービスとするとかスマホの保有率を100%に近づけるといった具体策であり、これらはすでに既成事実に近い。田園都市のイメージは全くぼやけたままである。高速インターネットの普及によってIT産業の立地が大都市でなくても可能となっているのは事実であるが、実際には進んでいるようには思えない。どのような障害があって、それを取り除く策を実行するのかが抜けているのでは、絵に描いた餅という以外にないだろう。
   
「分断から協調」は岸田ビジョン全体のテーマともなっている。この言葉は格差社会(階級社会)において、格差による分断をなくすのではなく、格差のもとで協調せよという意味なのではないだろうか。大企業と中小企業・小規模事業者の「共存共栄モデル」を掲げているが、下請け法がしっかり守られているか、下請け法をさらに強化するなどの施策は欠けている。中小企業庁の「共存共栄モデル」では、主に大企業側の下請け企業を巻き込む実践例の紹介がされており、下請け企業側の企業連合に言及があるが、実際には企業連合で立場性を強めている例は稀なのではないか。また中小企業庁の「共存共栄モデル」資料(2020年1月)では「取引価格への労務費の反映についても、発注側は68%が「反映した」と回答しているが、受注側では27%の回答に留まっており、業界団体ベースでの取り組みでは限界」と指摘されている。これでは弱い立場の下請け企業の労働者の賃金が上がるわけがない。
   
「岸田ビジョン」における成長戦略、経済政策に関しては、理念型を示しているだけで具体的な政策にほとんど触れられていない。願望の表明に近いもので、空手形としか呼びようがない。従来の新自由主義的な政策からの転換を目指すのであれば、数値的な部分を含め具体策を示すのが政治家の責任なのではないだろうか。
   
   

■ 枝野ビジョンと立憲民主党の経済政策

枝野幸男立憲民主党党首は保守本流を自称する政治家であるし、それ以上の期待はできないが、今年5月発行された『枝野ビジョン』は、総理大臣になる覚悟を示すものとのことである。
   
枝野党首は自民党の変質の起点を小泉内閣としているが、自民党がサッチャリズムやレーガノミクスに親和的な路線を選んだのは中曽根政権からである。国有企業の民営化を進め、同時に国労をはじめとする闘う労働組合の解体、弱体化によって労働戦線の右翼的再編を誘導し、独占資本による支配を強化した。当時は新保守主義と呼ぶ場合が多かったが、新自由主義と基本的には同じレールの上にある。社会党・総評の解体に成功したのちに出てきたのが、「新自由主義」であり、よりイデオロギー的に純化されたものであろうが、現実の経済政策における具体的作用は新保守主義とほとんど同様ではないか。
   
具体的な政策についての考え方は、資本主義下における改良的政策の方向性としては、労働者や一般勤労国民の立場から概ね受け入れられるものであると思う。民間でできないことまで民間に任せてしまう愚について語っていることは、民営化を推進してきた中曽根以来の自民党政権の政策への批判である。公共的な事業、施設のこれ以上の民営化を防ぎ、民営化されてしまっているが再公有化、再公営化が必要な分野について具体的な取り組みを求めたい。
   
自己責任論への批判から支え合う社会を作るというが、現代人は世界的に支え合って経済が成立しているのであって、問題なのはそれが商品、貨幣価値というものを媒介にしているために支え合いから漏れていく人が出てくる、また支え合うべき事柄が漏れてくることが問題なのである。新自由主義、「自己責任論」は当面の克服すべき問題ではあるが、本質的には資本主義が問題なのだ。
   
経済政策における内需拡大論では、経済成長のための低所得者層の消費拡大という発想は逆さまではないだろうか。低所得者も安心して健康的で文化的な生活ができるようにするために、所得再分配を適正にすることが必要で、その結果として必需品を中心に国内需要が高まる。それが雇用の拡大につながるという観点が大切なのである。経済成長は結果であるかもしれないが、目的ではない。
   
医療、介護、教育、農林水産業といった分野に力点を置くというのはよいだろう。ただし、大量生産から多品種少量生産へ、などというのは、主に一部の消費財産業や部品産業にしか当てはまらない話で、かなり時代遅れの産業構造観と言わざるをえない。高技術の素材産業、例えばシリコンウェーハーは依然として大量生産をベースにしており、その上に初めて多様な製品が生産できるということは忘れないほうがいい。それよりも産業のサービス化が進んで製造業自体のウエイトが小さくなった今、国内製造業の復活を目指すのかどうか、よりソフトな知識集約型先端産業を育てるのかといった検討が必要なのではないだろうか。
   
その他、盛りだくさんだが、子ども手当など一律支援の方法を「普遍主義」として主張していることは正しいと思う。昨年の特別定額給付も一律であった。また貨幣での給付だけでなくベーシックサービスを充実させていくというのも必要であろう。税制の改革方向も間違っていないと思う。消費税ばかりが焦点になりやすいが、給付付き税額控除のほうが消費減税より明らかに逆進性対策になるし、社会保障負担の逆進性について言及していることも正しい観点だと思う。
   
立憲民主党は総選挙に向けた「政権政策」の中では、分配なくして成長なしとして「一億総中流社会の復活」を掲げた。筆者は日本がいつ一億総中流社会だったのか記憶にないが、一億総中流社会ということで格差の縮小を目指そうという点には同意できる。具体的な政策としては、まず時限的に1000万円以下の所得税をゼロ、低所得者に12万円の給付を掲げ、一方で累進性の強化を掲げている。1000万円以下は所得税納税者全体の93%(2019年、国税庁統計年報)を占めており、所得税の総額のウエイトも高いので次元的措置とせざるをえないだろう。時限的な5%の消費税減税とともに、所得再分配による個人消費によって、コロナ禍不況から経済バランスの回復を図る短期的な経済政策と位置付けられる。恒久的な税制改革には所得税の累進性の強化、金融所得の総合課税化、法人税への累進性が盛り込まれた。消費税の逆進性を緩和し低所得者に配慮した給付付き税額控除の導入や資産格差の拡大に対応する相続税の累進強化にも触れて欲しかった。
   
最低賃金について時給1500円を段階的に目指すとしているが、5年以内などの目処を示すことでより現実味が出てくるのではないだろうか。「希望すれば正規雇用で働ける社会」、「雇用類似就業者の命と健康を守るため、労働者と同様に必要な労働関係法などを適用」と、近年の資本側の雇用形態多様化を利用した低労働条件での「労働者」の増加に対応した政策を打ち出している。
   
医療や介護、子育てや教育といった分野に予算を重点配分し、ベーシックサービスを充実させる暮らしの安心への投資として位置付け、少子化や空き家の増加などの問題を公的に解決しプラスに結びつける政策アイデアが盛り込まれている。
   
   

■ 社会民主党の生存のための経済政策

社会民主党の基本政策から経済政策についてみていきたい。新型コロナウイルス禍からの生活再建がトップに来ていることは理解を得られやすいだろう。自粛、時短営業、休業の要請は補償とセットという基本的考え方を打ち出した中で、具体策のアピールが必要だ。
   
税制改革について、企業への増税については時限的な企業の内部留保(利益剰余金)への課税をうたっているが、これは法人所得税率の恒久的引き上げでよいのではないだろうか。米国バイデン政権は法人税率を22%から28%に引き上げることを表明している。当面28%へ引き上げ、段階的にさらに増税していく方向が望ましい。所得税の累進性については特に1億円以上の層の税率引き上げに手をつけるべきではないか。この層は株式の売却益や配当は総合課税すべきである。消費税を向こう3年間ゼロとする政策は当面の政策として理解されやすく、誤りではないと思うが、十分な額の給付付き税額控除の導入の方が逆進性対策になり、低所得者への補助ともなる点は、引き続き検討していただきたい。
   
最低賃金全国一律時給1500円に引き上げ、男女の賃金格差を解消し、同一労働同一賃金を徹底するという政策は、積極的であるが、労働条件の改善という点では長時間労働の解消も重要なテーマであろう。暗黙に超過勤務が当たり前になっている職場実態、さらに超勤手当の不払い(サービス残業)問題は日本中に蔓延している。この解決を現場主義的に求めるのであれば、労働組合運動を職場レベルから強めるという視点がなければならない。日本の労働組合組織率は17.1%と低迷し、労働組合数も減少している。組織されているといってもユニオンショップで労資協調主義の組合も少なくない。労働組合への参加を増やしていくために、不当労働行為への罰則など組織化を阻む障害を取り除いていく政策も必要なのではないだろうか。
   
脱炭素ばかりが強調されがちな「地球環境と人間の共生をめざして」の項目の第一に脱原発を掲げている点は重要である。原発ゼロ基本法案を成立させ、ロードマップには原発の(再)稼働をただちに止めさせ、廃炉への取り組み開始を掲げていただきたい。地球環境保全(温暖化)への取り組みの点では、グリーンリカバリーの推進のみならず、エネルギーやその他の天然資源の消費そのものを減らしていく循環型経済への転換を促す政策が必要であるように感じる。
   
男女の賃金格差、雇用格差の解消はジェンダー平等の大切なポイントであろう。世界経済フォーラムによれば、日本は男女格差指数のランキングで150カ国中120位(2021年)と世界の中でも男女平等が進んでいない国であり、先進的な北欧諸国などの経験に学ぶ必要がある。
   
「外国人技能実習制度は抜本的に見直し」が掲げられている。技能実習制度は廃止して、雇用者の招聘による一定数の就労ビザ発行によって、日本で働きたい外国人を処遇するべきだろう。同時に招聘する雇用者に該当職種の平均賃金以上の支払い、労働条件を要件とし、国内の労働条件の低下を招かないようにすべきだ。
   
   

■ 野党・市民連合共通政策

4野党と市民連合で結ばれた共通政策においては、最初に「格差と貧困を是正する」政策がうたわれている。具体策としては、最低賃金引き上げ、非正規やフリーランスの待遇改善、住宅、教育、医療、保育、介護について公的支援が盛り込まれたほか、所得、法人、資産の税制、および社会保険料負担を見直し、消費税減税による再分配が盛り込まれた。新自由主義路線の経済政策に正面から対抗するための4野党の政策をかなり具体的に一致させる努力がされていると言えよう。
   
消費税減税については、これまで各党間で意見の違いがあり、廃止から一時的な減税まで幅があり、立憲民主党内には強い異見もあると思われる。筆者も同じ減税規模であれば消費減税よりは一律給付や給付付き税額控除の導入の方がより逆進性を緩和する政策になると考えているが、各党間に違いがあるにせよ公約の中で足並みをそろえたことは評価できるのではないだろうか。
   
総選挙公示当日の脱稿となったため結果を現時点で判断できないが、これまでの資本の利益を優先し、労働者・市民の生活を犠牲にし、格差拡大を放置してきた新自由主義的な自公政権の経済政策を転換させ、働く者の生活を守る経済政策を実現しなければならない。今回の総選挙にあたって4野党と市民連合の共闘体制が構築されたことは大きな前進であった。請負ではなく、労働者・市民が自ら主人公として社会の変革を勝ち取っていく政治勢力の結集と勝利を祈りたい。
   
(2021年10月19日)
   

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