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●2021年6月号
■ 統治能力を失い暴走する菅政権
    小笠原 福司

■ 世界への発信 「五輪より重い人の命」

かつて「人の命は地球よりも重い」(1977年)と、時の自民党福田赳夫首相の言った言葉を記憶されておられる方もあるでしょう。東京五輪・パラリンピックの開催まで2カ月余りとなった中で、この言葉とは真逆に、菅義偉首相は記者会見で「感染対策を徹底することで、国民の命や健康を守り、安全安心の大会を実現する」(5月7日)と、まるで呪文のように述べている。そして、「医療提供体制」や「医療提供」との言葉は首相の口からは出てこなかった。
   
前日の6日に開催された東京都モニタリング会議資料では、東京の医療提供体制については、4段階の中で一番厳しい段階で「体制がひっ迫していると思われる/通常の医療が大きく制限されていると思われる」との指摘。その後東京都医師会の尾崎治夫会長は、「いまだに必要な情報提供が少なく大会の全体像が見えない状況に危機感を抱いている。感染状況が高止まりでも『安全・安心』の連呼で開催に突き進む場合は『中止』を提言せざるを得ない」(毎日、5月22日)と述べている。
   
朝日新聞の5月15、16日の世論調査では、五輪を「再び延期」「中止」の合計が83%にも上り、前月から14ポイント増えた(各種世論調査では、6割〜8割近くが「中止」「再び延期」)。パンデミック禍で世界の多くの人々と国が苦しみに見舞われている中、「世界平和の祭典」のはずの五輪を強行することはその精神に反している。IOCのジョン・コーツ調整委員長は、大会期間中に緊急事態宣言が発令されても開催するのかと問われ、「答えはイエスだ」(21日)と発言した。日本の国民の健康や命より、五輪が大事、という暴言である。今は国際協調で世界各国がコロナを終息させることを優先すべきである。「新型コロナ制圧の証」ではなく、「五輪より重い人の命」。これが日本の菅首相が世界に発信すべきメッセージである。
   
   

■ 1〜3月期のGDPが再びマイナス

内閣府が5月18日に公表した2021年1〜3月期の実質GDP(国内総生産)速報値は、年率換算でマイナス5.1%と、3四半期ぶりのマイナス成長となった。また、2020年度の実質GDPはマイナス4.6%と、リーマン・ショックが起きた08年度の3.6%減を上回った。統計上さかのぼれる1955年度以降で最大の下落率となり、事実上戦後最悪の落ち込みとなった。
   

(図表1・クリックで拡大します)
   
日本経済は、最初の緊急事態宣言が発令された2020年4〜6月期に同マイナス28.6%の記録的な落ち込みの後、7〜9月期、10〜12月期は持ち直しが続いていたが、今回再びマイナス成長に転落した。
   
主因は、個人消費の減少(前期比マイナス1.4%)である。年明けに2度目の緊急事態宣言が発令され、外食を中心にサービス消費が減少した。さらに、もう1つの柱である設備投資は1.4%減で、2四半期ぶりにマイナスとなった。海外需要は7〜9月期、10〜12月期の景気回復をけん引してきたが、今期は自動車関連を中心に輸出の回復ベースが鈍化する一方、医薬品を中心に輸入の増加が続いたことでマイナス寄与となった。公的需要もマイナスで、「Go Toトラベル」事業が休止に追い込まれたことなどから政府消費が減少している。
   
雇用者報酬は、1〜3月期では、前期比実質2.2%の伸びとなったが、2020年度でみると、実質2.1%のマイナスとなった。総務省が11日に発表した家計調査によると、2020年度は、新型コロナウイルス流行のため2度の緊急事態宣言発出によって、物価変動の影響を除いた実質では前年度比4.9%減少。消費税増税の影響で5.1%減を記録した2014年度に次ぎ、過去2番目の減少幅となった。
   
4〜6月期も厳しい情勢にあるとの分析が多い。当初ゴールデンウィーク期間に限る予定だった3度目の緊急事態は、感染者数の収束がみられず、5月末までの延長が決まった(しかし、新規感染者数は依然高い水準にあり、むしろ宣言対象地域の拡大がみられ、5月末の解除もさらに6月中旬まで延長との報道もなされている)。
   
今後期待できる点は、設備投資や輸出の底堅さが続くと見られている点だが、それでも3度目の緊急事態宣言のマイナス影響を打ち消すには至らないとのこと。4〜6月期もサービス消費の低迷が続く公算が大きく、景気は停滞が続くと見込まれる。2期連続のマイナス成長、「コロナ不況」に突入しかねない状況ともいわれている。
   
欧米が「ポスト・コロナ」への足取りを確かなものにしていく一方、日本はワクチン接種の遅れとともに経済面でも出遅れが鮮明になるだろう。それは4〜6月期のGDP統計において経済成長率の差となって如実に表れる可能性が高く、「K字回復」の様相が強まると思われる。
   
コロナを封じ込めるという戦略目標を明確にし、ワクチンの安全・迅速な接種、大規模な検査、十分な補償と生活支援を2021年度予算の予備費(不足ならば補正予算の編成も)を活用して対策を講ずることが急がれる。
   
   

■ 政治が機能不全を起こしている

冒頭で述べたが、国民の命・健康よりも五輪・パラリンピックの開催を優先させる菅政権である。21日の政府の新型コロナ対策分科会でいみじくも尾身茂会長が、五輪を開催するかどうかについて、「大会期間中の地域医療への負荷を検証した上で考えるべき」と述べた。そして、東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長は、大会時の医療体制について、当初は1万人と言っていたが約7000人の医療従事者の見通しがたったと述べた。その人たちが動員されれば、当然その分日本の医療は圧迫され、救える命も救えなくなる(愛知県医労連が呼びかけたツイッター「#看護師の五輪派遣は困ります」は、2週間余で50万件を大きく超える発信がされた)。
   
また、有観客か無観客かについても、3月に海外の観客は断念したが、21日の組織委の発表では、海外からの訪日は選手、関係者合わせて9万人を超える規模になる。さらに国内から訪れる人の数は「会場収容定員の50%」案でも約500万枚のチケットが販売されるとのこと。五輪から約1カ月半、この人たちが全国を動き回れば、「変異株が広がるもとで、いまは日本の観客の方が危険だ」(東京都医師会尾碕治夫会長)と指摘されている。
   
国会でも取り上げられたが、海外の有力紙も、「五輪を『変異株の祭典』にしてしまい、感染を加速させる」(仏紙ルモンド)、「東京五輪は最悪のタイミングで『一大感染イベント』になる」(米紙ニューヨーク・タイムズ)との指摘。
   
こうした国内外からの指摘が現実のものになろうとしていても、「安全・安心」と科学的根拠を示さない菅首相の国民、世界への訴えは、もはや一国の首相としての統治能力を喪失していると言っても過言ではない。
   
さらに、コロナ禍にあっては、国民の生命が日々脅かされる中で、政府の対応の不十分さが一気に露呈し、いみじくも政治の機能不全をコロナが白日のもとにさらしたといえる。国民には、PCR検査などが徹底されないままの「アベノマスク」配布や、始めたかと思うと全面停止に追い込まれた「Go To」事業に象徴されるように、政府のコロナ対策は行き当たりばったりのご都合主義であり、緊急事態宣言の発令や延長を含め、後手後手に回っているとの受け止めが圧倒的に多い。
   
繰り返し繰り返し専門家から提言されてきたが、まずは検査を徹底し、陽性者を隔離・治療して感染の拡大を抑え、その後経済の回復を図るという、どの国にとっても基本的なやり方が、いまだもって徹底されていない。無論、今日では入国制限の徹底、ワクチン接種という流れである。
   
コロナ問題でも日本人には「ファクターX」があり、欧米との人種の違いや衛生環境の良さなどが感染しにくいといった類の根拠なき楽観論があった(筆者も当初はこの説を信用していた)。だが今や東アジアやオセアニア地域の中でも、中国や台湾、韓国、豪州やニュージーランドなどに比べ感染抑制は大きく後れを取り、インドネシアやフィリピンなど、感染拡大が制御できずにいる国々と新規感染者の数も同レベルにある。
   
欧州や米国と比べても後れが目立つ。感染者は日本は桁違いに低いと言われていたが、今や新規感染者数では英国やドイツなど欧州主要国の感染者数と日本は同程度になっている。これは日本のワクチン接種率が欧米に比べて著しく低いことが大きな要因とのこと。日本はワクチン開発だけでなく調達でも後れを取った。ようやく高齢者の接種が始まったが、接種体制でも準備を欠き、予約の混乱などが連日のように報じられて、今や供給量は確保されても接種には結びつかない場合も多いのでは、という懸念すら言われている(5月16日現在、約3600万人の高齢者のうち接種を1回受けた人の割合は2.6%、朝日新聞算出)。
   
これらの事態は、前述した五輪の強行開催含めて、判断力や指導力を含め政治が機能不全を起こしているといえる。
   
   

■ 野党共闘支持への客観的条件は確かにある

菅政権の統治能力の喪失は昨今の国会の論戦でも明らかになりつつある。菅首相の発言を振り返ると、国民全体ではなく、与党を支持する有権者に向けて語る言葉しか持っていないのではとの疑念がわく。それを裏付けるかのように、毎日新聞と社会調査研究センターが5月22日実施した全国世論調査結果でも、図表で見るように菅内閣の支持率は31%で、4月18日の前回調査の40%から9ポイント下落し、昨年9月の政権発足以降で最低となった。不支持率は59%で、前回の51%から8ポイント上昇した(他の調査で支持率は、時事通信32.2%、朝日33%、NHK35%)。
   

(図表2・クリックで拡大します)
   
東京五輪・パラリンピックについては、「中止すべきだ」が40%で最も多く、前回から11ポイント増加した。「再び延期すべきだ」は23%(前回19%)で、「中止」と「再延期」を合わせて6割を超えた。東京五輪の開催と新型コロナウイルス対策は両立できると思うのかとの問いでは、「両立できると思う」は21%。「両立できないので新型コロナ対策を優先すべき」は71%にのぼった。菅政権、IOCのジョン・コーツ調整委員長と民意は全く相反していることは明らかである。
   
菅政権の新型コロナ対策については、「評価する」が13%で、前回(19%)より6ポイント下がり、「評価しない」は69%で、前回(63%)より6ポイント上がった。「どちらともいえない」は17%(前回は18%)だった。支持率急落は前述したが、政府の新型コロナ対策への不満や、東京五輪を予定通りに開催する方針に批判が強まっていることが影響しているとみられる。
   
ただ、こうした世論の傾向が野党の支持の拡大につながっているのかと言えば、単純にはそうとは言えない傾向が続いている。例えば、朝日新聞の5月15、16日に実施した全国世論調査では、菅内閣の支持率は33%(4月は40%)、不支持は47%(同39%)と、前述した毎日の調査と同様の傾向は表している。自民党の政党支持率も30%(4月は35%)に下がり、菅内閣発足以降では最低となった。衆院選の比例区投票先も、自民は4月40%から5月35%へと下がり、野党第一党の立憲は14〜17%上昇にとどまっている。まだ自民党の半分超の支持しかない。これまで同様に、共産、国民、社民、れいわなども含めても自民支持の35%に届かないと推測される(しかし、ここに野党共闘で候補者を一本化して戦えば勝てる根拠も存在していることは間違いない)。
   
また、4月25日に投開票された北海道、長野の補選・広島の再選挙は、「野党側の3勝」となったが、投票率は、北海道30.46%、長野44.4%、広島33.61%と低投票率となった。特に、大規模な買収が立件された広島では3分の2の有権者が棄権という結果となった。別稿で報告されているが、野党側は従来の票に共産党が加わりほぼ目標を達成して当選したが、自民党支持者が動揺、混乱し、棄権、選挙運動をしなかったと分析がされている。また、長野では10代から40代は自民支持が多く、特に30代は54%もの自民党への支持がある、と報告されている。いわゆる無党派層は投票をしていないし、この間分析されてきたが、投票しても若者は自民支持が多い、という傾向に変化はないといえる。さらに、2009年の政権交代時のように無党派層、自民党支持層が野党候補に投票する動きはうまれていない。
   
ただ今回は、「新型コロナ感染」という人を選ばない脅威に襲われている。誰もが「コロナ感染対策」に関心をもたざるを得ないという客観的条件がある。無論、そこには本誌でも取り上げてきたが、非正規の若者、女性労働者へのしわ寄せがより強まっている特徴はある。しかし、これまで比較的政治に無関心と言われてきた層も含めて多くの労働者、国民が自らの命と暮らしをどう守るのか、日々呻吟しながら毎日をすごしている。ここに何を訴え、どう一緒に解決を求めて自公政権と対峙するのか。そのための野党共闘としての課題は何かが今こそ問われている。
   
   

■ 菅政権に院内外から対峙しよう

昨年の9月に立憲野党各党に届けられた市民連合の「4章15項目の政策要望」は、現在9月から10月にかけて想定されている総選挙での立憲野党の共通政策になり得るものといえる(筆者は、現在の立憲野党の力・成熟度からして、最善の共通政策、社民主義的政策だと考えている)。
   
そして、市民連合は今年2月から、立憲民主党、共産党、国民民主党、社民党、れいわ新選組、参院会派沖縄の風、同碧水会に対して、5項目の「立憲野党への市民連合からの申し入れ」を届け、15項目の政策要望を踏まえ、政権選択の戦いの旗印となる重要政策について早急に共有を図ることを要望した。
   
前述したように衆院北海道、参院長野補選・参院広島再選挙は、立憲野党候補の全員当選を勝ち取った(但し、補選や再選挙の場合は、「現政権に対する評価」「現政権に“お灸”をすえる」という感が強いとも言われる)。改めて小選挙区における候補者を立憲野党で一本化して戦えば勝てる情勢にあることを証明した。迫りくる総選挙に向けて、早急に小選挙区における野党統一候補の選定を急ぐことである。
   
同時に、国会内における共闘にとどまらず院外における共闘強化が問われている。前述したが総選挙に向けて「15項目」を土台とした「重要政策」を策定し、それを全国から国民に訴える統一的な大衆行動の組織化が求められる。無論、SNSなどを通しての訴えは有効なことは言うまでもないが、コロナ下にあって1年を経た今日、やはり創意工夫をして直接国民に訴えること。可視化を如何に図るのかが問われているのではないだろうか。
   
この国民的な広がりによって、参院長野補選でも垣間見られた民間大産別(背景には独占大企業)の、野党共闘の分断、それは菅政権(自公政権)の延命であり保守二大政党への誘導に他ならないが、その策動を打ち砕くことになる。そのためには、国民の中に渦巻く菅政権への怒り、憤りを引き出し、共有化し、全国的につなげること。「今こそ国民の中へ!」が野党共闘の前進に向けたスローガンといえる。
   
(5月22日)
   

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