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●2019年6月号
■ 参議院選挙で改憲勢力の2/3阻止を
     小笠原福司

   

■1. 深刻さを増す日本経済

本誌2月号巻頭言で、「戦後最長の景気回復の局面」下とは、「実感なき景気回復」と述べた。内閣府が5月20日に発表した1〜3月期の国内総生産(以下、GDPと略す)速報値は、景気後退懸念が出される中で、予想外の実質で前期比0.5%増となった(年率で2.1%増とのこと)。しかし、内実はGDPの約6割を占める個人消費がマイナス0.1%、設備投資がマイナス0.3%、輸出がマイナス2.4%と、主要指標がそろって振るわず、いよいよアベノミクスの行き詰まりを露にした。
   
前期比微増(計算上)は、輸入の大幅な落ち込みが成長率を押し上げた形で内需に陰りが出つつある、との見方が多くのエコノミストから共通して言われている(輸入がリーマン・ショック直後の2009年1〜3月以来の大幅な落ち込みで、企業の生産活動に必要な原油や天然ガスなどの輸入が減った影響)。
   
内閣府が5月13日に発表した3月の景気動向指数は、前月からマイナス0.9ポイント下がり、景気の判断指数は13年1月以来、6年2カ月ぶりに「悪化」となった。景気動向指数は今年に入ってから「下方への局面変化」に引き下げられ、さらに今回「悪化」へと下方修正された。なお、「悪化」としたのはリーマン・ショックと重なる08年6月〜09年4月と第2次安倍内閣発足前後の12年10月〜13年1月の2回。
   
「景気悪化に対する懸念はひとまず和らいだ」との「見方」の一方で、個人消費は雇用者報酬が(名目値)が前年度比で1.1%増とほぼ4年ぶりに低い伸びにとどまったこと。さらに、「食料品や一部サービスで値上げが広がっており、ここで賃上げの勢いが失われるようだと、消費意欲に水を差しかねない。そして、最も気がかりな要因として前期比0.3%減に転じた企業の設備投資の動向として、中国に関する投資の手控えの動き、米中摩擦の深刻化が、経営者の心理に及ぼす影響を注視する必要がある」(いずれも日経、5月21日)と警鐘を鳴らしている。
   
日本経済新聞社が5月20日に集計した民間13社のエコノミスト予測では、4〜6月期の実質GDPは年率換算の平均値で前期比0.004%減と、ゼロ成長にとどまる。その要因は、前述したが主要項目の個人消費と設備投資、そして外需のマイナスが懸念、との分析である。
   
安倍政権は外需中心の経済成長を目指してきたが、「戦後最長の景気回復期間」の内実は、実質成長率が1%前後と先進国の半分以下で推移してきた。そして、今回のGDPの速報値は3月までの数字を積み上げたもの。景気動向指数も3月時点の景況判断。「世界経済は年後半に成長が加速する見通し」(日銀黒田東彦総裁、4月25日)との見解も、米中貿易摩擦が再び激化し始めた5月に入ってからの変化を織り込んでいない。ちなみに2018年度で見ると世界経済のGDPのうち米中で4割弱を占める。「本格的な悪化」はこれからである。
   
よって、今やるべきことは、10月からの消費税増税の中止、国民の所得を増やす政策(中小・零細企業の賃上げ、最賃の大幅な引き上げ)、社会保障の縮減・負担増の中止など「雇用と暮らしの安定」と「将来不安を解消」し、内需を中心とした経済政策への転換である。
   
   

■2. 直近の2つの選挙闘争から考える

統一自治体選41都道府県の無投票当選率は26.9%と戦後最高となった(612人当選者のうち自民党412人)。そして、前後半共に投票率は最低水準となった。特に、市長選の平均投票率は47.5%とはじめて5割を切った。まさしく「民主主義の危機」である。
   
低得票率と密接に絡むのが、「候補者のなり手がいない」問題。町村は、人口減で社会の存続そのものが危ぶまれ、「地方創生」とは程遠い現実にある。また、この間の合併により議員定数の減が拍車をかけ、自治が遠のき「自治の崩壊」が進んだ。「安倍一強政治」がより加速させたことは言うまでもない。
   
また、「地方における野党の力量不足」という現実もある。道県議選の党派別立候補者数で見ると自民党1302人に対して、立憲民主党(以下、立民)、国民民主党(国民)の合計は290人と22%に留まっている(旧民主党の前回立候補は345人)。「戦う前から負けていた」といえる。
   
議席で見ると、自民は単独過半数を得たのは50.9%と全体の25(前回は24)。前述したが野党の力量不足が起因している。党派別に見る特徴は、立民と維新以外は議席を減らした。後半戦は、立民は東京・関東など都市部で微風、日本維新の会(以下、維新)は大阪から奈良、京都へと進出した。
   
41都道府県の政党別の得票率を見ると、

  • 自民――39.97%(+0.52ポイント)、
  • 公明――8.11%、

野党側では

  • 共産――7.49%、
  • 立民――7.22%、
  • 国民――3.75%、
  • 社民――0.6%

と4野党の合計でも自民党得票率40%前後の半分にも及ばない。野党共闘の結束強化による有権者の半数近い無党派層への支持の拡大が大きな課題といえる。
   
次に、衆院補選の結果から考えて見たい。自民は衆参補選としては9年半年ぶりに負けた。「沖縄、大阪は特殊選挙区の事情……」との自民党幹部のコメントの一方で、「知事選での保守分裂は、進む地方経済の疲弊とそれへの歯止めがかからないことへの不満の表れ」との地方紙の論評。「分裂」選挙という形態で現出した安倍政権への「反逆」とも言える。その流れを大きくすることが問われている。
   
沖縄は、自民は昨年の2月の名護市長選、秋の知事選でも辺野古新基地の是非には一切触れなかったが、今回は「辺野古新基地推進」を公然と掲げて戦った。そして、菅官房長官の来県、3区14市町村長の首長、さらに県内ホテル大手のかりゆしグループも今回は自民候補を支持するなど「強大な組織力」をもって挑んだ(札束でほほを殴ると揶揄される「地域振興」によるバラマキ政治)。
   
結果は、「オール沖縄」の結束力で、3度の「ノー」を突きつけた(無党派からの支持72%)。自民党にとっては言い訳のきかない、「辺野古埋め立てノー」の審判が下った。「沖縄における民主主義の勝利」とも評された。なお、野党は4野党党首が初めて揃って沖縄市を訪問し、野党統一候補の支持を訴えた。
   
大阪12区は、12年の衆院選以来、自民党が3連勝していた地盤。「弔い選挙」をアッピールし、安倍首相も終盤に乗り込んだが前半戦の大阪維新の会W選挙勝利の流れを止めきれなかった。なお、公明党の山口代表は、関西における衆院選挙情勢を睨んで「応援に入らず」という戦術をとった。そして、公明党が大阪維新の会の大阪都構想の住民投票にも賛成することを示唆。自公維の改憲勢力の極として注視が必要である。一方で、その根底では公明党の支持層の35%は自民党に投票せず、沖縄も学会員や支持者の2割以上が「辺野古反対」候補に投票するパターンが定着し、支持者の離反が進みつつあるとの分析もある。
   
   

■3. 参議院選挙に向けた攻防の特徴

通常国会の焦点と参議院選挙の争点については、本誌5月号、社会民主党党首又市征治氏の提起を参照して頂きたい。以下は、その後の情勢の特徴と問題意識を述べる。
   
安倍首相は、「5.3憲法記念日」に日本会議系の改憲集会にビデオメッセージを寄せ、九条改憲に改めて意欲を示すとともに、2020年の新憲法施行を目指す気持ちは変わらないと強調した(憲法調査会を軸に改憲議論が進まないことへの右派勢力からの不満に応じた言動、との分析もあるが、我々のこの間の大衆運動の成果ともいえる)。
   
そして、マスコミを総動員して「令和元年という新たな時代のスタートラインに立って……」と改元と改憲を意識的に結びつけている。この流れに対して「4月1日の新元号発表から1カ月。この国は『国民の国』ではなく、『天皇の国』になってしまった……安倍政権は『新しい時代には新しい憲法を』という考え方を国民に浸透させようとしている」(立正大名誉教授 金子勝氏)との指摘は的を得ている。
   
今回の新天皇即位の儀式でも分かるように、皇室には宗教色の濃い神事があり、その神事には天照大御神を祭る伊勢神宮を本宗と仰ぐ神社本庁の存在があり、その背後には戦前美化の極右団体「日本会議」が見え隠れする(第2次安倍政権で実現させた「集団的自衛権の行使容認」「教育勅語を礼賛する愛国教育」「自虐史観を排除する歴史修正主義」は、いずれも日本会議が提言してきたもの)。「今、日本会議は天皇の生前退位を利用して天皇中心主義を目指そうとしている」(金子勝氏)。
   
改元ムード・「令和」効果の中で行われた最近の世論調査では、「改憲すべき」と「改憲すべきでない」が拮抗している。安倍政権の支持率も8ポイント前後の上昇となるなど、かれらの戦略が功を奏している。そして、政権としてはこのムードを維持したまま「参院選、もしくは同日選挙になだれ込む」との報道が目立っている。
   
安倍「一強」に対峙する野党側は、4月18日に「衆参の同日選挙もありうる」(自民党萩生田幹事長代行)との観測気球があげられたことで、4月23日に立民枝野代表、国民の玉木代表の会談がもたれ、「参議院選挙のみならず、衆院小選挙区の野党候補の一本化も」と進みだした(参議員1人区の野党統一候補は、山形、福島、栃木、群馬、新潟、福井、三重、和歌山、愛媛、熊本、沖縄)。安倍政権サイドの観測気球が、逆に野党共闘の結束を固めることに作用をした。
   
そして、「単なる野合」との自民党の批判を打ち破るべく、市民連合が仲立ちとなって「参議院選挙野党共闘共通政策」が4野党1会派に提案され、5月下旬には共通政策としてのまとめが行われると聞く。その中心は、立民、社民党の2党であることは言うまでもない。
   
主な柱は、

  1. 第九条「改定」反対、改憲発議をさせない。
  2. 特定秘密保護法、安保法制、共謀罪など立憲主義に反する諸法律の廃止。
  3. 膨張する防衛予算、防衛装備について憲法九条の理念に照らして精査し、他の政策に財源を振り向けること。
  4. 沖縄県名護市辺野古の新基地建設の断念、普天間基地の撤去、日米地位協定を改定。
  5. 北朝鮮との国交正常化。
  6. 原発再稼働を認めずに、原発ゼロを目指す。
  7. 行政における情報の操作、捏造の全体像の究明と、高プロなどの法律の廃止。
  8. 消費税引き上げ中止、所得、資産、法人の総合的な税制の公平化。
  9. 最低賃金を全国一律1500円へ引き上げ、

など13項目が掲げられている。
   
野党共闘の共通政策づくりを進展させ、衆参同日選挙をもにらんだ野党統一候補づくりを急ぎ、安倍政権に代わりうる政策を国民に明確に提示し、働き方や暮らしの実態に根ざして広げる運動の強化こそ、喫緊の課題である。
   
   

■4. 改憲勢力の2/3阻止に向けた課題

さて、統一自治体選挙結果は総じて自民党が「勝っている」ことは間違いない。但し、低投票率を考えると「後援会など自前の組織を固めた」ということであり、「支持を拡大した」とはいえない。しかし、今回中央がSNSを駆使した選挙戦の展開によって、若者を中心として、「支持から投票行動にまで高める」努力が意識的に行われている。野党側も無党派層、若者を中心とした支持の拡大に向けて響く政策と確実に伝わる宣伝力が問われている。
   
そこで、「何を訴えて支持を得たのか、課題は何か」、について特集で共通して言われていることから学んでみたい。
   
1つ目は、言い尽くされた格言だが、「今こそ大衆の中へ、大胆に入ろう!」である。大衆の実態、声の中にこそ「闘いの根拠」があり、それを基盤とした政策・要求が潜んでいる。それを掴み、発見する我々自身の行動力、特に「じっくりと聞く能力」が問われていることを教えている。
   
また、「マスコミの支持率などに惑わされていて、大衆の中に入れていない」との指摘は多くの現状である。それは資本・安倍政権側の戦略に呑み込まれていることでもある。今一度、問い直してみることが必要ではないだろうか。
   
2つ目は、大衆の中に入り、窮乏化の実態と「反抗の芽」、条件を確認することである。それは「我々の主張の正しさ、自信をとりもどすこと」でもある。そして、それに留まらずその自信がまた仲間の中に入って、支持を広げて行く原動力になる、という相乗効果を生み出すことが学べる。
   
3つには、大衆の中に入り掴んだ不満、怒り、我々への不信、期待などを一部の「財産」にせず、組織的にどう確認するのか。皆の共通認識にどう広げるのかである。
   
その取り組みによって、大衆の怒りと要求を量的に広げることができ、それが質的な発展(自分だけの支持者から、もう1人2人の支持者の拡大へと広がる、それも自分の言葉を通して広げられる)を促すことが報告されている。まさしく「組織者を組織する」実践が報告されている。
   
以上の3つの課題は、何も目新しいことではない。社民党がこの間主張してきた、「現憲法が暮らしに活かされているのか」「憲法に保障されている当然の権利が保障されているのか」という立場で大衆の中に入って要求を「聞く」努力をすること。そこから改良政策を一緒につくり、要求し、闘い取る共同闘争にまで高める取り組みである。
   
統一自治体選挙で掴まれた貴重な教訓、財産を今一度各級機関で学び直し、「今こそ大胆に、大衆の中に入ろう」という実践に踏み出そうということである。
   
さて、衆参同日選挙も取り沙汰される中で、安倍首相の「改憲への強い執念」が意図的にマスコミを通して流されている。「悲願の改憲」が安倍首相が思い描くように進んでいない焦りと、あえて「改憲」を前面に出すことで自民党、右翼勢力からの求心力を高めたいとの思惑も垣間見れる。
   
しかし、ここで野党側が安倍首相の「土俵」に上がることは、前述したが「無党派層をどちらが組織するのか」が最大の焦点の選挙で、あえて「無党派層を棄権に導く」ことになりはしないか、という懸念がある。かつて「無党派層は寝てもらっていた方が良い」と言った首相がいたが、その戦略にみすみす乗ることは「改憲勢力の2/3阻止」を果たし得ないことになる。
   
政治に対する国民の期待を世論調査で見ると、景気、雇用、社会保障と続き、憲法はいつも6番、7番目に位置していることを忘れてはならない。結論を言えば、暮らし、雇用、社会保障の具体的な改革政策と、現憲法遵守をどう統一的に結びつけて打ち出すのかではないだろうか。そのことが改憲阻止の戦線を広げることに必ずやつながる。
   
「官製春闘」と揶揄されたが、「賃上げは安倍さんにしてもらうもの」と冗談とも言えない常識を若者の中にそれなりに浸透させてきた。そして、10月から幼児教育・保育の無償化を打ち出している。さらに、ここにきて「最賃の全国一律1000円への引上げペースの加速をさせる(「アベノミクス」の果実を全国に波及させる狙い)。また、「再チャレンジ政策」として、就職氷河期世代とされる30代半ばから40代半ば(非正規約317万人、フリーター約52万人、無業者約38万人)への支援を強める施策を打ち出し、6月の経済財政運営の基本方針(骨太の方針)に盛り込むとのことである。彼らの若者を中心とした「無党派層」「非正規労働者」「疲弊する地方」(とりわけ最賃の水準が低い東北地方や沖縄県は参院選で激戦が予想されている)を取り込む戦略が透けて見える(朝日新聞の5月の内閣支持率は全体で45%、18歳から28歳男性で54%、30代男性は57%と高めである。なお、女性はいずれも39%)。野党政策の「先取り」ともいえる。
   
これに真正面から対抗する野党共闘の共通政策。それも財源の裏付け含めて税制改正とセットで経済、社会保障政策が求められている。同時に、「雇用、暮らし、社会保障、平和への不安は誰がつくり出したのか」という安倍政治と大企業の責任を明確にすることを忘れてはならない。
   
そして、この参議院選挙(もしくは衆参同日選挙)を通して立民、社民党など日本における社民主義勢力の結集、強化を図らねばならない。この勢力の強化抜きには「安倍政権下における改憲阻止」は成し得ないし、安倍政権の打倒もできない。
   
さらに、その先の展望として自民党中心の保守政権と対峙する統一戦線(連立政権)を構築することはでき得ない。政治闘争の今日的戦略をしっかりと踏まえつつ、参議院選での改憲勢力の2/3阻止に向け全力で戦い抜こう。
   
   

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