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●2014年2月号
■ 第186回通常国会の焦点と課題
   社会民主党政策審議会事務局長 横田昌三

   
   

■「好循環実現国会」の欺瞞性

1月24日、会期150日間の第186回通常国会が召集された。80本の新規政府提出法案と18本の条約承認が目指されている本格的な国会である。「世界で一番企業が活躍しやすい国」と「戦後レジームからの脱却」とを目指す安倍政権は、今度の通常国会を「好循環実現国会」と位置づけ、その第1弾が2013年度補正予算と2014年度予算であるとして、年度内成立を目指している。
   
しかし、13年度補正とあわせて14年度予算は、2年連続100兆円という過去最大のバラマキ予算となっている。内容的にも、国土強靱化やインフラ老朽化対策、円滑な物流の実現を通じた競争力強化等を名目として公共事業関係予算が大きくのばされている。予算措置が切れることで、14年4月より、70歳から74歳の医療費窓口負担の2割への段階的引き上げも始まる。加えて、消費税率8%引き上げ、国民年金、厚生年金保険料の引き上げ、年金支給額の減額、住民税の復興増税上積み、高校授業料の全面無償化の見直しなど家計に大きな痛みをもたらす一方、復興特別法人税(年約8000億円)の前倒し廃止、設備投資減税、大企業にも交際費の非課税措置の適用拡大など、「企業にやさしい予算」となっている。不要不急の大規模公共事業が今後も拡大していかないよう厳しくチェックしていくとともに、問題点を徹底的にただしていく。
   
安倍政権の強調する「好循環」論は、富裕層や大企業を応援することで、労働者や低所得者等に富がしたたり落ちていくというトリクルダウン論であり、それがまやかしであることは、景気回復の実感がなく、企業業績が回復しても賃金(所定内給与)の上昇にはつながらなかった小泉改革時に経験済みである。積極的な賃金引き上げと安定雇用の拡大、安心の社会保障を築くことによって、個人消費を中心とする内需を拡大していくべきであり、家計に対する支援が最重点の立場で、労働者や社会的弱者にしわ寄せをもたらすアベノミクスの問題点を徹底的に追及していく。
   
また、所定内給与や賃金をはじめ家計の経済指標が回復しないまま、2014年4月から消費税増税の負担が押し付けられる。国民生活には、円安政策もあって、燃料代やエネルギー代、食料品等の値上げが相次ぐとともに、各種の公的負担増が襲いかかっている。一方、経済対策の大半は、企業の減税と公共事業追加であり、「企業優遇、家計軽視」そのものである。国民生活や家計、中小零細事業者の実態を明らかにするとともに、「消費税増税法廃止法案」提出等の取り組みを強化する必要がある。
   
2014年度与党税制改正大綱に基づき、所得税法等改正案、地方法人税法案、地方税法等改正案などが提出される。デフレ脱却と日本経済の再生、消費税増税対策のため、民間投資を活性化させ、経済の好循環に資することを名目に、企業の負担を減らし利益を増やす内容が数多く盛り込まれており、あわせて消費税増税のための地ならしが目立つものとなっている。企業優遇・家計切り捨ての姿勢が目立つ税制改正の中身を浮き彫りにしていかなければならない。安倍首相が熱心な法人実効税率の引き下げ問題について、減税の効果、税収に与える影響、課税ベース、事業者負担のあり方等など問題点を徹底的に追及していく。
   
地域間の税源の偏在を是正し、財政力格差の縮小を図ることを目的として、自治体の法人住民税の法人税割の一部を国税化(地方法人税)して地方交付税の原資とすることになった。自治体の基幹税を召し上げることは分権・自治に逆行するものであり、地方法人特別税・地方法人特別譲与税の継続とともに問題である。また、地方交付税法改正案の審議において、「別枠加算」や「歳出の特別枠」の減額、これまでの行革努力や地域経済活性化の成果を反映して配分する手法の問題などもただしていく必要がある。
   
今後3年間で実施する成長戦略の実行計画に基づき、約30の関連法案が提出される。たとえば、健康・医療戦略推進法案、医療分野の研究開発の司令塔「日本版NIH」の中核となる独立行政法人日本医療研究開発機構法案、総合科学技術会議を総合科学技術・イノベーション会議に改組する法案、海外インフラ展開を支援するための株式会社海外交通・都市開発事業支援機構法案、国際戦略港湾の国際競争力を強化するための港湾法改正案、マンション建替え円滑化法改正案、中心市街地活性化法改正案、電力の小売業への参入の全面自由化のための電気事業法等改正案、小規模企業振興基本法案、「強い農業」に向けた農業経営安定交付金法改正案、農業多面的機能発揮促進法案などが予定されている。労働者・利用者・国民犠牲の上に成り立つ、大企業の負担軽減と利益拡大のための成長戦略の問題点を厳しく追及していかなければならない。
   
安倍政権のめざす「稼げる農業」、「強い農業」は、戦後民主主義の原点とも言える「農地改革」からの「脱却」である。企業による「集約型農業」が加速すれば、「家族と集落の助け合い」に支えられた農家を直撃し、農業と地域の崩壊が加速することになる。TPP交渉について、国会の場で交渉の現状と見通しを含めきちんとただし、交渉からの脱退、日米並行協議の即時打ち切りを求めていく。そして、TPPではなく、各国の食料主権や多様な農業基盤を守る、公正で相互互恵的な経済連携推進するとともに、地域産業の柱として農林水産業の再生と農山漁村の発展を位置づけていくべきである。
   
また、交通政策基本法成立を受けて、地域公共交通活性化・再生法改正案が提出されるが、生活交通支援と持続的な地域公共交通網の形成に結びつけていく必要がある。
   
   

■ 社会保障・雇用関係

秋の臨時国会で成立した社会保障制度改革プログラム法に基づき、具体的な制度改革を盛り込んだ個別の法案が順次提出される。消費税増税分が社会保障の充実ではなく、公共事業と企業減税に回る実態を明らかにするとともに、社会保障制度改革の問題点をただしていく必要がある。
   
15年度から一定所得者以上の介護保険料の2割への引き上げ、特養の新規入所者を原則「要介護3」以上に限定、「要支援1、2」の訪問介護と通所介護を市町村の事業へ移行など、介護保険の見直しが行われる。また、医療分野では、消費税増税分も活用した基金を都道府県に創設するほか、都道府県の医療計画を介護に合わせ6年ごとに変更することなどの見直しが行われる。地域医療・介護総合確保推進法案として、それぞれの改正する内容を一括して盛り込もうとしているが、法案数を減らして審議時間の短縮を目指すのは、追及逃れであり、きわめて姑息だ。
   
このほか、難病患者に対する医療法案、小児慢性特定疾患への医療費助成の確立のための児童福祉法改正案、母子家庭・父子家庭への支援拡充などのための次世代育成支援対策推進法等改正案が提出される。また、国民年金保険料納付猶予制度の創設、事務処理誤りに伴う納付の特例の創設などを柱とする国民年金法等改正案が提出される。第一次安倍政権の「最後の1人まで探し出して、年金を払います」という「消えた年金」問題の公約もただしていく。
   
雇用分野では、産業競争力会議や規制改革会議、・国家戦略特区WG、労働政策審議会等において、ホワイトカラー・エグゼンプション、「裁量労働」制の適用拡大などの労働時間法制の緩和、勤務地・職務・時間限定の「ジョブ型正社員」・「限定正社員」の導入、解雇の金銭解決ルールの検討などの解雇規制の緩和、労働者派遣法の一層の緩和などの検討が進められている。今国会には、雇用保険法改正案、労働安全衛生法改正案、パート労働法改正案、有期雇用法制の見直しや労働者派遣法改正案が提出される予定である。
   
有期雇用については、高度の専門的な知識等を有する有期雇用労働者に、無期への転換申込権発生までの特例を設けることになる。5年で無期転換権という前回の法改正を無にするもので、高度専門職から掘り崩される可能性もある。派遣法改正案の中身は、労働政策審議会で議論中であり、常用代替防止と均等待遇による労働者保護の立場で押し返していかなければならない。
   
   

■ 外交・防衛関係

「積極的平和主義」を外交安保のキーワードとして打ち出した安倍内閣は、昨年12月、「国家安全保障戦略(NSS)」と、新たな「防衛計画の大綱(防衛大綱)」・「中期防衛力整備計画(中期防)」を決定し、14年度の防衛予算は2年連続の軍拡予算となった。また、制服組の登用拡大や防衛審議官の新設、航空総隊の改編などのための防衛省設置法等改正案が提出される。これらの問題点を徹底的にただし、自衛隊の役割を「専守防衛」の実力組織から、海外に派兵し実戦を戦える派兵の軍隊へと変貌させる危険な企みに歯止めをかけていく。
   
沖縄振興法改正案、在沖縄海兵隊のグアム移転協定改正などの審議を通じて、名護市長選で示された民意も踏まえ、辺野古新基地建設の問題点を取り上げ、普天間基地の「県外」・「国外」への移設を強く求めていく。
   
自民党がとりまとめた国家安全保障基本法案概要は、国や自治体の政策遂行にも安全保障への配慮を求め、国民に安全保障に協力する努力義務を課すなど、平和国家を否定し、軍事優先の国へ転換しようとするものとなっている。そして集団的自衛権の行使を法律で認めるとともに、多国籍軍参加も解禁しようとしている。また、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が4月に集団的自衛権の行使を容認する報告をまとめることになっている。状況によっては、国家安全保障基本法案の提出をスルーして、憲法解釈変更や集団的自衛権を法的に裏付ける下位法の制定を先行させることも考えられる。いずれにせよ、「なし崩し改憲」の危険性を国民に知らしめるとともに、靖国参拝問題、東アジア特に中国、韓国との関係改善などもただしていく。
   
憲法改正国民投票の対象を「4年後には18歳以上」に確定する法案も提出されるが、他の「宿題」の実施状況もただし、憲法改正国民投票の準備を進めることを許さないようにする必要がある。
   
   

■ 治安・弾圧立法目白押し

特定秘密保護法は、昨年12月13日に公布され、1年以内に施行されることが決まったが、あらゆる機会で法の問題点を追及するとともに、省令作成や情報保全諮問会議等の動きも徹底的にチェックしていく必要がある。他の野党に働きかけ、特定秘密保護法の廃止法案を提出するとともに、国会内外で共闘を強め、1日も早い廃止を実現するために全力を挙げる。
   
いわゆるカンパ禁止法改正案が継続審議になっているのに加え、警察庁は、犯罪者の指紋データベース情報を互いに即時提供するPCSC協定関連法案を予定している。犯罪収益移転防止法改正案、国際的テロリズム関係者財産凍結法案も検討中の法案とされている。さらに、共謀罪の導入や盗聴法の対象範囲の拡大、第三者立ち会いの廃止など、一層の治安・弾圧立法も検討されている。
   
   

■ 行革関係と「教育再生」

独立行政法人改革に関連して、独立行政法人通則法改正案、個別の独法見直し法案が提出される。継続審議となっていた国家公務員法改正案に加え、能力・実績に基づく人事管理の徹底や、退職管理の適正の確保のための地方公務員法及び地方独立行政法人法改正案も提出される。労働基本権問題をいかに今後につなげていくのかも課題である。その他、行政不服審査制度の抜本見直し関連法案も予定されている。また、地方分野では、事務・権限の移譲を推進するための地方分権第四次一括法案、中核市制度と特例市制度の統合、地方公共団体の連携協約制度の創設等のための地方自治法改正案が提出される。「平成の大合併」後をどう構想していくのかも問われている。
   
さて、安倍政権は、教育再生を経済再生と並ぶ日本国の最重要課題として、「強い日本」を取り戻すためには、将来を担っていく「子どもたちの教育を再生することが不可欠」だと位置づけ、新自由主義的発想で、学校・子どもをもっと競争させ、グローバル社会で日本がトップとなるための人材、成長戦略に資する人材を育成するとともに、新保守主義的発想で、規範意識、愛国心、伝統文化を身につけさせるなど、教育の中立性や市民自治を脅かし、競争推進と格差の拡大、国家のための教育を実現しようとしている。具体的には、愛国心や公に尽くすなど道徳の教科化、心のノートの拡大、高校「日本史」必修と「公共」科の設置、首長に地方教育行政の責任を持たせるための教育委員会の見直しなどが打ち出されている。今回、義務教育教科書無償措置法改正案、地方教育行政組織運営法改正案などが予定されているが、「平和・民主教育」から「国家主義的教育」へ転換しようとする「教育再生」の問題点を厳しく追及する必要がある。
   
   

■ 脱原発・エネルギー政策の転換と復興

安倍政権は、原子力ムラや財界の要求に応え、成長戦略に原発を位置づけ、原発再稼働、原発輸出に躍起になっている。原発稼働は一切許さず、原発の新増設はすべて白紙撤回するよう強く求めていくとともに、原発ゼロ社会を目指し、他の党に精力的に働きかけて、脱原発基本法案を再提出できるよう全力で取り組む。トルコやアラブ首長国連邦との原子力協定の問題点を徹底的に追及する。
   
原子力委員会設置法改正案や原子力賠償機構法改正案の審議などを通じて、東京電力福島第一原発事故の完全収束と原因究明、原発事故被害者の補償、生活再建の支援、汚染水処理、除染等へのこれまでの対応と現状の把握、今後の具体的な対策とその負担のあり方、東京電力のあり方などをただしていく。原発事故子ども・被災者支援法の骨抜き適用を許さない取り組みも強化する必要がある。
   
東日本大震災の被災地では、資材の高騰、「復興格差」の広がり、避難ストレスの増加、医師や看護師、介護職員、自治体職員等の不足等々、今も多くの課題を抱え、復興の歩みは遅い。被災者向けの雇用の創出・拡大と住まいの再建、きめ細やかな生活支援を着実に推進する必要がある。
   
   

■ 安倍政権の「終わりの始まり」に

ねじれが解消したとたん、首相の施政方針演説を1回にするとか、大臣の国会出席を減らすなどの「国会改革」についての協議が始まっている。すでに安倍政権は、補正予算と本予算の同時提出の形で所信表明演説と代表質問を省略している。予算委員会集中審議はできるだけ開かずに、一部の党だけの党首討論に置き換えようとしている。召集翌日に海外に行くなど、外交日程優先の国会審議日程にもなっている。国会を通じた国民への説明責任の観点で、政府・与党の国会軽視・形骸化、国民論議不在の姿勢を厳しく糾弾するとともに、少数野党の発言機会の保障など国会審議の充実を強く求めていく。
   
衆参とも選挙制度の協議が行われている。少数政党を排除することなく、民意の反映する選挙制度が実現できるよう全力で取り組む必要がある。
   
衆参両院で与党が過半数以上を占め、「一強多弱」といわれる状況が生まれた一方、野党は、ばらばらな現状にある。安倍政権のやりたい放題の「自由に決められる政治」を許さないためにも、社民党の政策や要求の実現のためにも、野党共闘や政党間の真摯な協議を進める必要がある。
   
今度の通常国会は、党改革を推進する社民党にとって、改革の第一歩を示す国会である。同時に、改憲策動と国民生活切り捨てにひた走る安倍政権に対し、きっぱりと対決し、安倍政権の「終わりの始まり」を作り出す国会でもある。国民世論と政権とのねじれを反撃の条件として、景気回復、暮らしと雇用の改善、社会保障の充実、消費税増税反対、脱原発の推進、TPP反対など、国民目線に立った政策課題による共闘を積み上げ、安倍政権に対峙しうる戦線の構築に全力で取り組むべきであるし、院外の大衆運動、とりわけ労働運動との有機的な連携を強化していくことが不可欠である。
   
   

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