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●2010年7月号
■政治の激変と社民党の課題
  社民党副党首・参議院議員 又市征治
     

■1. 普天間基地の移設問題とは

(1) まず、鳩山内閣崩壊の直接の引き金となった米軍普天間基地の移転問題です。  私たち社民党はもともと国外移設の方針です。また鳩山首相は、昨年来、沖縄県民の圧倒的世論を勘案して「国外、最低でも県外移設」を表明してきました。だから、昨年9月の三党連立の政策協議では、「……沖縄県民の負担軽減の観点から、日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」ことに合意したのです。つまり「国外、県外移設」が与党三党の合意でした。
 
 総選挙による政権交代、そしてこの三党連立の合意、とりわけ鳩山首相の発言は、戦後65年、基地負担に悩まされてきた沖縄県民に大きな期待を抱かせました。例えば今年5月11日の沖縄タイムスによると、移設先は「グアムなど海外」が76.8%、「沖縄以外の国内」が18.5%と、世論は圧倒的に国外・県外移設に上ります。一方で、鳩山首相は、この問題は「米国、政府・与党、移設先地元」の3つの合意を得て進めると繰り返し表明してきました。
 
 ところが政府は、3月下旬以降、「調整が必要な政策は、三党党首クラスによる基本政策閣僚委員会において議論し、その結果を閣議に諮り、決していくことを確認する」という政権合意も、また「移設先地元の合意」も無視し、「沖縄県内や徳之島への移設」を次々打ち出したのです。だから国民は、こうした政府の変心・迷走に不信を募らせ、例えばNHKの世論調査では、「首相の普天間移設対応を評価しない」が69.5%にも上ったのです。
 
 これに対して社民党は、

  1. 基本政策閣僚委員会で議論すること、
  2. 沖縄県民の期待を裏切らないこと、
  3. 受け入れに積極的な米領のグアムや北マリアナ諸島連邦(上下両院で受け入れ決議を上げている)への移設で米国と交渉すること
 
 ――などを繰り返し提案し強く求めてきました。
 
 しかし政府は、5月28日、「政府・与党、移設先地元との合意」を踏みにじり、沖縄県の辺野古沖に新基地を建設する日米共同声明を結び、福島党首を大臣から罷免した上で、その対処方針の閣議決定を強行したのです。これは、連立政権の信義を壊し、国民への公約を踏みにじる鳩山内閣の変質ですから、社民党は断じて許すことはできず、連立政権からの離脱を決断したのです。これが、鳩山内閣終焉の引き金となりました。
 
(2) もう少し普天間基地移設の経過と問題点に触れておきます。
 1995年、沖縄における度重なる米軍の犯罪から反基地闘争が高まり、これに慌てた日米両政府は、翌96年、市街地の真ん中にある米軍普天間飛行場の全面返還・移設に合意しました。その移設先をめぐって名護市辺野古沖が上がりましたが協議が難航し、結局、世界的な米軍再編方針との兼ね合いで10年後の2006年に日米合意が成されました。
 
 その主要な中身は、普天間基地の海兵隊キャンプ・シュアブ(名護市辺野古)沿岸部への移設、在沖海兵隊18000人のうち8000人のグアム移転、嘉手納より南の基地返還などでした。しかも、この8000人のグアム移転に要する費用102.7億ドルのうち、何と60.9億ドル(60%)を日本が負担することで自民党政権は合意したのです。つまり、「沖縄の負担軽減のため」の全面返還・移設が「米軍再編の一環」に組み込まれてしまったのです。これは、米国から見れば、在日米軍駐留経費の実に75%を日本が負担してくれているのだから、こんなに「思いやり」のある国から出たくはないというのが本音です。
 
 こう見ると、普天間基地移設問題の本質は、従前からの対米従属を続けるのか否かの問題なのです。だから社民党は、政権交代した今こそ、沖縄にある33の米軍施設の1つである普天間基地の国外移設を米国に強く求め、沖縄の基地負担軽減を図るべきだとしてきたのです。
 
 なお、在沖海兵隊の「抑止力」がにわかに浮上しましたが、これは国民を騙す宣伝です。敵前上陸強襲部隊である海兵隊は、沖縄を基地にして韓国、タイ、フィリピン、グアム、オーストラリアなどを年中巡回訓練している部隊ですから、いわゆる「抑止力」とは別物であり、沖縄にいなければならない理由はないのです。理由は駐留経費なのです。ですから、グアムや北マリアナ諸島への移設こそが唯一の解決の道なのです。
 

■2. 鳩山内閣崩壊の要因

(1) さて、「政治の世界は一寸先が闇」という言葉がありますが、この8か月半の鳩山内閣の軌跡もそうでしょう。
 昨年8月の総選挙で与野党逆転した結果、9月16日、民主党・社民党・国民新党による連立政権が誕生しました。社民党のスローガンである「生活再建」を掲げた鳩山内閣は、71%の高い支持率(不支持率14%)を得、順風を受けて船出しました。しかし、2月頃には鳩山首相と小沢民主党幹事長の「政治とカネ」をめぐる事件で支持・不支持が40%台で逆転しました。その後3月末頃から、沖縄の普天間基地移転問題で政府は迷走を続けた挙げ句、5月末には福島社民党党首を大臣から罷免して社民党を政権離脱に追い込み、支持率は17%(不支持率70%)に急落し(以上、朝日新聞調査)、そしてついに6月2日、鳩山内閣は発足から8か月半で座礁(崩壊)してしまったのです。
 
(2) 鳩山氏は、辞任表明で「普天間基地の移転問題で社民党を政権離脱に追い込んだこと」と「政治とカネ」の問題で国民に不信を買った責任を取る旨を述べました。結局、自らこの2つに指導力を発揮できず、次の内閣に丸投げしました。実に無責任な対処です。責任を取るというのであれば、普天間基地の移転問題を白紙に戻して国民と米国に謝罪する、鳩山氏と小沢氏が少なくとも政治倫理審査会に出て説明をすることが、不可欠です。
 
 鳩山内閣崩壊の原因はこれだけではありません。3つ目は民主党の選挙至上主義によるばら撒き政策と政権の現実政策との乖離をめぐる迷走、4つ目は「政策は政府へ一元化する」「政治主導」を叫びながら、政権を支え時には正していく民主党内の論議がまったくなかった(だから普天間問題で政府が暴走した)ことも上げられます。
 
(3) それにしても、驚くべき無責任な政治姿勢です。鳩山首相は、沖縄県民の願いを裏切り、(「社民党は最後に折れてくれるだろう」と読み違えて)社民党を連立から離脱させ、この13年間杭一本打てなかった実現不可能な辺野古沖移設を米国に約束しておいて、「社民党と連立は維持したい(代わりの閣僚を出せ)」とか「選挙協力はお願いしたい」などと言うに至っては、支離滅裂で、もはや首相としての資格もありません。
 
 余談ですが、ですから私は、5月29日のテレビ出演を皮切りに「鳩山首相が辞めない限り民主党との選挙協力はあり得ない」「このままでは民主党は参院選でぼろ負けして鳩山首相の退陣は必至だろう。ならば民主党は今のうちに退陣してもらう方が得策ではないか」「わが党の政権離脱で参院では与野党逆転の委員会が生まれて重要法案の成立は覚束ないし、首相問責決議が出れば社民党は基本的に賛成する」などと矢継ぎ早に批判を展開し、31日のテレビでは「一両日中に鳩山首相は退陣する」と断言して民主党内にその流れを誘発し、ついに6月2日の辞任表明に追い込みました。これは腹いせでなく、沖縄県民と社民党を裏切った無責任政治を追及し、首班交代による政府方針の転換を求めたのです。
 

■3. 連立政権の中で社民党が果たした役割

(1) ところで、私たち社民党は、連立政権発足以来8か月余り、政権交代で政治転換を実現するため、閣内・与党内で全力を挙げてきました。それは、向こう4年かけて国民に約束した三党の『政策合意』の具現化ですが、社民党が政権参加したからこそ、社会保障・福祉や雇用などで数々の施策を前進させました。
 
 特徴的な点を上げれば、

  • 雇用・労働政策では、
    • 雇用調整助成金の支給要件の緩和や支給期間延長で雇用対策費を前年度の13倍に増額
    • 製造業派遣の原則禁止、直接雇用見なし制度などを盛り込んだ労働者派遣法改正案提出
    • 非正規労働者の雇用保険の適用範囲を拡大し、新たに255万人に適用
    • 職業訓練中に生活支援手当を受け取れる求職者支援制度を創設
    • 「国家的不当労働行為」といわれたJR採用差別1047名問題を24年ぶりに解決
    • 民営化で著しく非正規化が進められてきた郵政職員約10万人を正規職員に
  • 社会保障政策では、
    • 社会保障費の自然増を毎年2000億円削減する措置を廃止
    • 後期高齢者医療制度の廃止を決め、新制度移行までは保険料負担を軽減
    • 障害者自立支援法の廃止を決め、新制度移行までは保険料負担を軽減
    • 医師不足が深刻な急性期入院医療に4000億円増額、10年ぶりに診療報酬増額改定
  • 地域・生活支援政策では、
    • 疲弊した地域活性化のため、地方交付税を1.1兆円増額(実質過去最高24.6兆円)
    • 販売農家を支援する戸別所得保障制度(1.5万円/10アール)を導入
    • 中小企業の金融支援のため、貸し渋り・貸し剥がし防止法制定、貸し出し枠拡大
    • 家計・内需を冷え込ませないように向こう4年間は消費税率据え置き
  • 子育て支援策では、
    • 「子どもの貧困」解消のため生活保護の母子加算を復活、児童扶養手当を父子家庭に拡大
    • 子育て支援のため「子ども手当」(月額1万3000円)を創設
    • 高校授業料の実質無償化(月額約1万円)を実現
    • 待機児童解消のため、保育所定員5万人増、「子ども・子育てビジョン」を策定
 ……など。政権交代1年目としては「生活再建」に大きな成果を上げ得たと思います。
(2) また、これら以外にも自衛隊をインド洋から撤退させ、憲法改悪のための憲法審査会開始の策動をストップさせてきました。さらに、「政治とカネ」の問題でも、小沢幹事長に政治倫理審査会への出席をいち早く求め、民主党に自浄能力の発揮、政治資金の透明化を求めてきました。
 
 このように、社民党は「政権の品質保証」に一定の役割を果たしました。
 

■4. 菅新内閣の誕生と問題点

(1) 鳩山退陣を受け、6月8日、菅新内閣が誕生しました。支持率は60%台にV字回復しました。中身をよく見ると「小沢切り」が大きな要因で、あとは「しっかりやれ」のご祝儀のようです。
 
 菅内閣の使命は、前政権が「政治とカネ」の問題や「普天間基地の移設」問題などで迷走し、国民の信頼を失墜し、退陣を余儀なくされたことをしっかり踏まえ、対処することです。「政治とカネ」の問題では「小沢切りでこと終われり」と逃げの姿勢ですが、最低、政治倫理審査会への出席、政治資金の透明化、企業・団体献金の禁止などを自ら明確にすべきでしょう。
 
 また、「普天間基地の移設」問題では、民主党内でも約半数の議員が辺野古沖移設に懐疑的ないし反対で国外・県外移設を求めているのに、沖縄県民の声を無視し鳩山内閣の方針を継承すると言明し、オバマ米大統領にまで電話しました。
 
 これでは前政権と変わらず、問題の解明も解決もできず、再び紛糾は必至でしょう。
 
(2) また菅首相は、所信表明演説で、「政治の役割とは、最小不幸の社会を作ることにある。」「強い経済と、強い財政と、強い社会保障を一体として実現する」考えを表明しました。「最小不幸の社会を作る」「強い社会保障を実現する」ことに誰も異存はないでしょうが、社民党抜きで、小泉内閣の新自由主義的思考と似たり寄ったりの主要閣僚が進める「強い経済、強い財政」は、再び大企業の利益優先・格差の拡大、消費税率引き上げを含む増税、結果として社会保障抑制路線を招きかねません。他方で菅内閣は、昨年9月の「三党連立政権政策合意」を継承すると表明していますから、これに照らして監視と批判を強めねばなりません。わが社民党の使命でもあります。
 

■5. これからの社民党の立ち位置と課題

 さて、連立政権離脱後の社民党の立ち位置が問われます。社民党は、

  1. 憲法理念の実現、
  2. 格差を是正した生活優先の社会、
  3. 人々の支え合いによる共生社会
 ――をめざす社会民主主義政党です。この立場を堅持し、与党にも他の野党に対しても、「政策を中心に是々非々で臨む」野党としてより一層奮闘していきます。
 
 与党でない限り野党ですから、国会の民主的運営などでは全野党と協力しますが、憲法理念をないがしろにしたり、格差社会を認めるような新自由主義的勢力や政策とは毅然と一線を画して対処していきます。
 
 また、昨年9月、三党連立政権の樹立に当たり、10分類・33の個別政策について『政策合意』と幹事長口頭確認(反国民的政策の歯止めを含む)を結び、国民に向こう4年間かけて実現を公約しました。これは与・野党に分かれても三党の共同責任です。菅首相の所信表明に見るようにそれを空文化するような言動も見られますから、民主党及び国民新党にそれを求めていきます。それが合意できれば、その限りにおいてパーシャル連合(政策合意による部分連合)が成立しますから、政策実現へ選挙を含む三党間の協力も出てきます。
 
 なお、連立政権への復帰も問われますが、5・28日米共同声明と閣議決定を見直し、最低、「普天間基地の移設については、三党の合意並びに移設先地元との合意がない限り、政府の最終対処方針は決定しない」旨の確認がなされない以上、応じられません。
 
 社民党は、一貫して「格差是正・国民生活優先と憲法理念を守る政治」の実現に奮闘してきましたし、これからも一層奮闘していきます。
 
 鳩山内閣の理不尽な普天間基地の移設対応をめぐって政権離脱に至りましたが、基本的には、「党の力量・議席不足で政権の暴走を止められなかった」という厳しい反省が必要です。だから、「党の力量・議席」増大が不可欠です。そのために、6月24日公示7月11日投票の参議院選挙で改選議席の倍増をめざし、いま全力を挙げて戦いを進めています。以上の情況のご理解とご支援・共闘を訴えます。それは「社民党のため」ではなく、「格差是正・国民生活優先と憲法理念を守る政治」を皆さんと一緒に実現していくために、です。
 
 社民党への変わらぬご支援ご協力を改めてお願いいたします。
 
(6月11日談)

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